ラボにおけるERESとCSV【第117回】

2024/09/13 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内におけるデータインテグリティ観察所見を引き続き解説する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(87)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ SSSS社 2023/3/30
施設:製剤工場(無菌)

■ Observation 2
バックアップデータが完全で、改変削除や消失から保護されていることを保証できていない。特に;
生理化学ラボの分析機器が無停電電源に接続されておらず、電源断、電源ノイズ、電圧低下を受ける機器が適切に機能することを保証できていない。データ収集中に発生する電源障害はデータ破壊につながる。

★解説:指摘内容について 
「データ収集中に発生する電源障害はデータ破壊につながる」との指摘である。データ収集中に電源障害が発生した場合、電源障害が回復した後に分析を再度実施すれば問題はないはずである。また、分析機器がデータ収集中に故障することもありうる。その場合もデータは取得できないので、正常な分析機器により分析を再実施すれば問題は生じない。にもかかわらず電源障害におけるデータ破壊の可能性が指摘された背景は理解できない。

分析機器が維持している過去データが突然の電源障害により破壊されることがあるかもしれない。その場合バックアップデータがあれば破壊された過去データを復旧することができるので問題は生じない。

電源が突然停止するとハードウェアが破壊される装置があるかもしれない。そのような場合には無停電電源が接続されているはずである。本指摘はどのような分析機器に対してなされたものかは読み取れないが、ハードウェア破壊の懸念を指摘したものではないと思われる。

したがって、本Observation 2は理解しがたい指摘であると言わざるを得ない。納得のいかない指摘に対しては、査察官と十分に意見交換(ディスカッション)を行い、その根拠となる法令を確認し、「指摘」か「推奨」か、を確認すべきである。

推奨事項は一般的に口頭説明であり、査察官によってはEIR (Establishment Inspection Report:施設査察報告書)に推奨事項として記載する。EIRに記載された推奨事項に対しては適切な対応を次回査察までに実施しておくのがよい。推奨事項を実施する必要がないと判断した場合は、その判断根拠を文書化しておく必要がある。483に記載された指摘事項に対してはその対応方法や対応実施結果を483回答としてFDAへ報告しなければならない。483回答が不適切であるとFDAが判断すると、FDAからWL(Warning Letter:警告書)が発出されたり、行政措置として米国への輸入制限や承認取り消しが実施される。

483は査察最終日に査察官から企業側へ手渡される。手渡された483に記載されてしまった指摘事項をディスカッションにより覆すのはなかなか難しいと思われる。日々のデイリーラップアップ(daily wrap-up meeting)において当日の指摘事項、懸案事項、検討課題などを双方で確認するのが重要である。サイトツアー中に査察官がつぶやいた感想のようなことが指摘事項として483に記載されてしまい反論の余地がなかったとの話を聞いたことがある。サイトツアー中に査察官がつぶやいたことは一部の人にしか伝わっていないことが大いにありうるので、デイリーラップアップにおいて、その日の指摘事項、懸案事項、検討課題などを双方で確認しディスカッションするのが重要である。

 

 

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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