【2025年4月】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

教育訓練の実効性の評価
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
第13話:教育訓練の実効性の評価
3月27日(2025年)、徳島県は長生堂製薬の川内工場(徳島市)に対し、セフェム系抗生物質の製造に際し、打錠用粉末の乾燥工程において承認書に記載の方法と異なる手順を実施したことを主な理由として、32日間の業務停止を命じました。同社は2021年にも違法製造による行政処分を受けていますが、今回の事案はその改善対策を推進する過程で発生しました。今回、違反対象となった品目はセフジニル錠100mg「サワイ」などの経口セフェム系抗生物質であり、同社がこの品目を含め多くの企業から受託製造を行う中での受注増による生産の逼迫が、違反発生の原因の一つと考えられています。
今回の行政処分の理由としては、上記のほか、工程洗浄やバリデーションなど多岐にわたるGMP上の不備が挙げられていますが、その中に“教育訓練の実効性評価”に関する指摘もみられます。この課題はこれまでも違法製造事案が確認される都度、処分の理由の一つとして挙げられてきていますが、いずれのケースにおいても、業務停止命令の理由としてどれほどの重要度と位置付けられているかは定かではありません。
GMPに限らず、教育訓練の実効性を評価することはそう簡単ではありません。そもそも、教育や訓練というものは、長い年月をかけて継続的に実施し、その先に“成果”や“効果”が確認されるものであり、半期や通期(1年)で、その評価をせよということそのものに無理があると考えられます。学校教育やモノ造りの“職人”を育てる場合などを想定すると分かりやすいでしょう。小学校から始まり、中学、高校と学び続け大学受験に進む中で、それぞれ個人の努力や生来の才能などが合わさり、各人の能力というものが見えてきて、そこで初めて、それまでの教育の効果というものが確認される。つまり、教育や訓練の実効性を明確に確認するには、それ相応の時間・期間を要するというのが一般の認識ではないでしょうか。
“職人”で言えば、熟練者に付いて、日々、その技を見て学び続け、5年、10年という年月を経て、やっと一職人としてひとり立ちできるようになり、そこで、初めて、訓練の成果というものが真に確認される。教育や訓練の実効性の評価・確認とは本来、そういったものではないでしょうか。とはいうものの、GMPの教育訓練においては、製造、或いは、試験検査の業務につく前に教育訓練を行い、ミスなく業務が行えるようにしておくことが求められることから、そんな悠長なことは言っておられないのも事実です。ただ、GMPの教育訓練の場合も、短期間で熟練者と同じように、安心してその業務を任せられるレベルに育成することは所詮無理であり、上記のように時間を掛けてステップを踏んで育て、上達を期待することになるのは言うまでもありません。
そこで、このGMP省令における要件たる“教育訓練の実効性の評価”というものをどう考え、どう実施して記録に残すかということになるわけですが、これが難題です。GMP省令に関する“知識教育”などの場合は筆記試験を実施することにより、比較的簡単にその理解度と記憶レベルが確認できます。しかし、製造や試験検査の技能・手技に関し、到達レベルを評価することは、そう簡単ではありません。実地で指導した上、実技の試験を行うという流れの中で評価を行うことになるわけですが、この場合の評価項目や評価水準というものを製造工程(操作技術)ごと、或いは、試験項目ごとに仔細に設定する必要があり、その内容の妥当性も問われるからです。
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