最新コスメ科学 解体新書【第16回】

細菌とコスメ② 選択抗菌性と分子の構造
石けん博士Mさんからの提案で、マカデミアナッツやヒトの皮脂に含まれているパルミトレイン酸という脂肪酸のカルシウム塩を調製し、肌荒れやニキビの原因になる黄色ブドウ球菌やアクネ菌の増殖を抑制する効果があることを発見しました [1]。そして、不思議なことに、免疫を強める働きがあると言われている表皮ブドウ球菌にはほとんど影響がなく、いわゆる悪玉菌の増殖を優先的に抑制する「選択抗菌性」を示すことが明らかになったのです。
この研究成果をお話しすると、化粧品業界だけでなく、材料化学から微生物まで、あらゆる分野の研究者が面白がってくれました。なにしろ脂肪酸のような何千年も昔、ギリシャ・ローマの時代から使われてきた植物由来の材料が、正義の味方のようにいわゆる悪玉菌を減らしてくれるのです!
一方で、みんなに口をそろえて質問されました。「なぜ???」
黄色ブドウ球菌も表皮ブドウ球菌も、同じブドウ球菌族であるにもかかわらず、一方は一瞬で抗菌されるのに、一方はへっちゃら・・・。わたしがずっと指導頂いてきた微生物の専門家のY先生も首をかしげるのでした。
これまでにも、実際に黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の違いについて研究がされていて、例えば細胞膜の脂質の組成やリパーゼと呼ばれる酵素に違いがあることが報告されていますが、謎はなかなか解けません・・・ [2、 3]。
そこでわれわれは「構造活性相関」に基づいて選択抗菌性の発現メカニズムを解析することにしました。この方法は、物質の分子構造と薬学的あるいは毒性学的な活性の間になりたつ関係に基づいて化合物の「薬効」を予測しようとするもので、創薬の分野では昔から取り組まれていました。正直、石けんのような界面活性剤が菌のどこでどんなふるまいをするかを考えても、あまりにもたくさんの可能性がありすぎて、私のような生物学のド素人には、なにが正しいのか、見当もつきません。そこで、絨毯爆撃的にあらゆる界面活性剤の選択抗菌性を評価し、この現象が起こるための必要条件から、選択抗菌性が起こるメカニズムを推測することにしたのです。
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