ゼロベースからの化粧品の品質管理【第54回】

2025/03/28 化粧品

製造所の職制とGMPにおける役割の明確化

 

―製造所において職制とGMPにおける役割の明確化について―

 ISO22716は、化粧品の製造におけるGMP(Good Manufacturing Practice, 適正製造規範)を定めた国際規格であり、品質と安全性の確保を目的としています。
 この規格では、「組織と役割」に関する要求事項として、各部門の役割を明確にし、適切に連携することを求めています。化粧品の各社においてGMP体制の整備は2017年以降確実に進んでおり、衛生管理や品質管理の実務に関する展開については多くの解説がなされている背景もあり、標準書類の整備は比較的容易に進められることもあり、規定や標準書等の文書類は一定の水準に達していると感じています。
 しかしながら、GMPの基礎となる運営体制はあまり深く議論されずに扱われ、職制とは別にGMP組織図が示されるケースや職制上の組織とGMP組織との連携が明確になっていないケースを目にします。本来であれば、職制の組織を基盤としてGMPの組織を明確にした上で、各部門の職制での機能に沿ってGMPにおける役割を適切に位置づけることが望ましいと考えます。
 そこで今回は、今更ではありますが、職制の組織に対してISO22716の規定に基づいた各部門の役割について、具体的な実例を交えて説明します。また、日本の薬機法や化粧品基準との関連についても触れ、GMP体制の理解を深める一助となることを目指します。

1.組織と役割の概要
 ISO22716では、組織全体が品質管理に関与し、それぞれの役割と責任が明確に定義されることが重要とされています。主な部門として、品質保証(QA)、品質管理(QC)、製造、供給管理、技術・開発、経営陣が挙げられます。
 以下、職制組織に対してGMPの運用において果たすべき機能を示します。

表1 各部門のGMP体制上の役割(例)

注意) 研究開発担当の役割:
 GMPの適用範囲は、原材料の受入れから製品の出荷までとなっており、製造所の組織で処方に関する研究所との開発窓口となる部署や担当者は外れるとされているケースがありますが、処方開発のを業務とする担当者についても製造所内の組織に所属している場合にはGMPの組織に組み入れ、GMP上の機能を明確にしておいた方が良いものと考えます。

2.製造所の組織に関する法的要求とGMPに関する役割
 化粧品の製造所における組織に対して、薬機法や化粧品GMPガイドラインでは以下の機能が求められています。

① 化粧品責任技術者 →薬機法に基づく化粧品製造所の業務を実地に管理する責任者です。
(求められる機能)
・保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その製造所に勤務する従業者を監督する、【薬事法第17条第6項で引用する第8条第1項】
・製造所の構造設備及び化粧品・医薬部外品その他の物品を管理する。
・その他、その製造所の業務につき、必要な注意をしなければならない。
・製造及び試験に関する記録その他当該製造所の管理に関する記録を作成し、かつ、これを保管しなければならない。【薬事法第17条第6項で引用する第8条第1項】
 

<GMPに関する組織>
⇒GMP組織図のトップは、上級経営者(工場長又は薬事担当役員等)になります。
●注意事項
 薬機法に基づく責任技術者は資格要件があり、その資格要件に基づき行政に届出を行いますが、資格要件だけに着目して責任技術者が任命されている場合には、職制上の責任と権限とGMPの運営において矛盾が生じますので注意が必要です。
 事例としては、製造部門の責任者が工場長になっている場合や品質部門の薬剤師の有資格者の担当者が責任技術者となっている場合があり、注意が必要です。製造部門で発生したトラブルに対する実務面での判断や決裁権限、一方、法的要求では責任技術者が責務を負うことになっていること、GMPにおいては品質部門の責任者が品質面に関しては責任を負うことになっており矛盾が生じ易いので注意が必要です。

(GMPにおいて上級経営者に求められる機能)
・工場内の立入制限 等

② 化粧品製造販売業においては、総括責任者の設置が求められており、品質保証と安全管理の責任者をそれぞれ別に置くことが望ましいとされているものの、総括責任者が品質保証責任者、安全管理責任者と兼ねることも可能です。一方、製造所に関しては、法的要求としては責任技術者の設置と製造部門と品質部門の独立が求められています。更に、GMPの要求では、品質部門に関しては品質保証部門と品質管理部門から成り立っていることが求められています。これらのことを考えると、GMPの組織としては最低限次の責任者を設けることが好ましいと考えます。

・製造責任者 → 製造工程の管理
・品質保証責任者(QA) → GMP適合性・品質システムの管理
・品質管理責任者(QC) → 製品試験と規格適合性評価
製造部門と品質部門の独立に関しては意識されているものの、品質保証部門と品質管理部門が明確になっていないケースがあり注意が必要です。
 

3.GMP組織で注意すべき事項
① 責任技術者と品質保証責任者の権限・役割が曖昧
 (具体例):
 GMPの運営に関しては、責任技術者、若しくは品質部門おかれた責任者の監督の下で品質管理責任者(QA担当)が全体を把握管理しなければなりませんが、品質管理責任者(QC担当者)や製造部門の管理者と適切に連携できておらず、品質に関する最終判断を明確にできないケースがあります。
 特に、職制に基づき製造部門の指示が優先され、品質保証部門が品質上の問題を指摘しても是正措置が取られない、またQAの独立性が確保されていないため、製造部門の意向が品質判断に影響を与えていると思われるケースが散見されます。
 <対策:>
 品質保証責任者の権限を明確に規定し、最終的な品質判断の責任は品質保証部門(QA部門)にあることを組織全体で共有することが重要です。特に、工場長の下に責任技術者が配置されている場合には、QA部門の判断結果の結論は変更できない旨文書化すると共に、製造部門が適切に協力する体制で運営されるように、定期的な会議の実施や役割の明確化を行うことが重要です。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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