医薬品のモノづくりの歩み【第39回】

バランススコアカードとKPIマネジメント(1)
執筆者関連書籍「医薬品製造におけるモノづくりの原点と工場管理の実践」
BSCとKPIマネジメント(1)
これまで、「医薬品の「モノづくり」の歩み」では、「モノづくり」の基本要素である品質(Quality)、生産性(Cost)、安定供給(Delivery)と安定操業を支える安全衛生(Safety)、環境保全(Environment)について、一つひとつその意味するところ、考え方、内容についてお話ししてきました。そして、工場がより良い品質の医薬品をより安く、顧客に安定供給する社会的使命を担っていることに触れました。そのためには、工場は、「モノづくり」の基本要素のQCD+SEのパフォーマンスレベルをバランスよく高めていく事が大切であることもお話しました。工場経営におけるマネジメントでは、この基本要素を高めていくことが求められ、その結果、顧客の信頼を得ることに繋がります。
そこで、本連載では工場経営に話題を移して、これまでの筆者の経験も含め、工場マネジメントの考え方やその手法に触れながら紹介していきます。
工場は、一般的な企業が有する研究、開発、生産、営業、管理などの機能の中で、生産機能を担う部門であり、企業が掲げる目標や計画など企業戦略に基づいて戦略を立案します。(図1)1)

最近の医薬品業界では、製造委受託の進展に伴い、生産受託会社(CMO)や、工場の余剰生産能力を活用して製造受託事業を始める企業が増えてきており、生産戦略そのものが企業戦略に占める割合が増える傾向にあります。また、戦略を立てるために様々な分析方法や戦略立案手法がありますが、筆者は、新薬メーカーの生産部門、生産機能会社や生産受託会社の経営に携わっているときに重要目標達成指標(Key Goal Indicator:以下KGIと称する)・ 業績評価指標(Key Performance Indicator:以下KPIと称する)を活用していた経験から、ここでは、工場経営のマネジメント手法としてバランススコアカード(以下BSCと称する)について紹介していきたいと思います。
BSCとは、1992年にハーバードビジネススクールのロバート・S・キャプラン教授とコンサルタント会社社長のデビット・P・ノートン氏により「ハーバード・ビジネス・ビュー」誌上に新たな業績評価システムとして発表されたもので、ビジョンと戦略を明確にすることで、財務数値に表される業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績の評価を行うための手法のことを言います。BSCでは、財務の視点に加え、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点から戦略を立て、その戦略を重要成功要因(Critical Success Factor:以下CSFと称する)→KPI→アクションプランと現場の業務(所属単位や個人単位)まで反映させることで、戦略の遂行状況を測りながら、企業ビジョンの実現や目標の達成を目指すだけでなく、企業の組織力、成長力、競争力を強化することを目的に活用されます。2)
これらの視点に基づいて、戦略に対するCSFとKPIを設定してモニタリングを行います。BSCの4つの視点の主な内容は、次の通りです。
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