ドマさんの徒然なるままに【第77話】 GMPの十戒

2025/03/14 製造(GMDP)

第77話:GMPの十戒

十戒(じっかい)(Ten Commandments)」と聞いて皆様は何を連想しますか? ほとんどの方は、「モーセの十戒」を思い出すのではないでしょうか。筆者も「十戒=モーセの十戒=チャールトン・ヘストン、ユル・ブリンナー主演の映画」を思い出します。釈迦に説法かもしれませんが、モーセの十戒とは、紀元前16世紀または紀元前13世紀頃に実際に存在したとされる人物「モーゼ(エジプト生まれのヘブライ人)」が、神から与えられたとされる10の戒律のことです*1

本話には直接関係しませんが、雑学のひとつとして、「モーセの十戒」について簡単に説明しておきます。
『当時、古代イスラエルの民族指導者的立場だったモーゼは、奴隷同然に扱われていたヘブライ人をエジプトから救い出す命令を神から受け、多くのヘブライの民達を従えて約束の地を目指すことになります(有名な「海が割れる」エピソードです)。
その道中、シナイ半島にあるシナイ山の山上にイスラエルの民の神ヤハウェが現れ、神を愛しその戒めを守る者には千代に及ぶまで恩恵を施すと約して、10の戒律(十戒)をモーゼに示します(旧約聖書/出エジプト記 第20章20章2節から17節、および申命記5章6節から21節)。
ちなみに、この十戒は、2つの石板に掘られる形で記されており、それは神の意思であるとされています。
その後、新約聖書においてもイエスにより成就さるべきものとして継受されているとのことです。』*1

その、「モーセの十戒」ですが図1に示しておきました。雑学のひとつとしてご参考あれ。


図1:モーセの十戒(Ten Commandments)

筆者は、ユダヤ教信者でもなければ、キリスト教信者でもありません。そもそも熱心な仏教徒とも言えません。過去、筆者がQAに成りたてだった際にGMP監査を受け、その際に「GMPの十戒」なるものをオーディターからご教示いただいた記憶があります。当時の資料は手元にありませんが、記載されていた10点の事項は、現在にして思えば、GMP遵守事項としてしごく当たり前のことであったように思います。要は、単に筆者が未熟で説教されただけというのが真相です。

その教示から既に四半世紀が経過し、時代の流れもあって、その本質について差異はないものの、GMP遵守の要求や運用状況についてはかなり変遷してきたように思えます。当時と違って、品質関係のGxPだけでも、GQPやらGDPやらが出現しました。そこで、現在に筆者が考える「GMP・GDP・GQPの十戒」について考察してみたいと思います。

「GMPの十戒」を図2に示しました。ここではPIC/S GMPをベースとして10点の要件を挙げました。


図2:GMPの十戒

「GDPの十戒」を図3に示しました。ここではPIC/S GDPをベースとして10点の要件を挙げました。


図3:GDPの十戒

この2つを比較すれば分かると思いますが、基本的要件はほぼ同じと言えます。適用対象は、製造業者と卸売販売業者のそれぞれに対してであり、具体的な作業については業種・業態の相違も考慮すれば当然のことながら異なるものです。しかしながらそれぞれの業者に求められる品質保証については、何ら変わらないということの表れであると思います。

少し意味合いは異なりますが「GQPの十戒」を図4に示しました。ここではGQP省令をベースとして10点の要件を挙げました。GQPについては本邦特有の規制ということもあり、先のPIC/S GMPやGDPの十戒とは若干趣を異にするかと思います。しかしながら、工場を必ずしも有しない、承認取得者(製造販売業者)としての手順的要素を濃くした規制と解釈し、先の「GMPの十戒」および「GDPの十戒」も併せ持つ立場としての十戒と捉えれば、その意味合いが分かるかと思います。逆に言えば、品質の保証ということにおいては、その立場こそ違えどさほどの違いは無いと言えるのではないでしょうか。


図4:GQPの十戒

読者の皆様が、GMP、GDPそしてGQP(以下、品質GxPと略)という「医薬品の品質保証についてのプラクティス」をどのように捉えているかは存じ上げませんが、違いにこだわり、違いを論じたがる方々を多数見てきました。筆者、そういう方々を「なんでわざわざ区別して苦労したがるんだ!?」と冷ややかに見ていました。医薬品の消費者に当たるのは、病気で苦しむ患者さんたちです。彼/彼女らからすれば、品質GxPなんかどうでもよく、「それはお前たちが品質を保証するためにやることだろう。なんで患者の私たちがそんなこと気にしなくちゃいけないんだ。安心して使えるものをよこせよ!」と思うだけなんじゃないですか? そう考えると、大事なことは、「その適用対象がどの業種・業態であるかじゃなく、自分たちの仕事をそれぞれの立場でキチンとやって安心できる品質のものを取り扱うこと」に尽きるんじゃないですかね。おバカな筆者は、区別することも出来ないし、区別する気も無いので、『医薬品品質の十戒』としてしか理解していません。もっとハッキリ言えば、それでキチンとやれるのであれば、それで充分だとしか思っていません。

筆者は、GMDP屋であり、企業のビジネスの細部についてウンヌン言う立場の者ではないと思っています。ただ、GMDP屋の立場として、医薬品に係る色々な企業から相談や質問を投げかけられることが多いのも事実です。一部には、GMPやGDPは時間と労力のかかる金の浪費のような捉え方をなされる方も居られるようで、正直残念なことです。事の本質は、「生命に係る医薬品の品質を担う立場、それは取りも直さず、安全性と有効性という医薬品の本質に多大なる影響を及ぼす」という、至って簡単な、それだけの理解で済む話なのだと思いますが・・・。

そこで、筆者の考える「医薬品品質に係る企業の部署・職員としての十戒」を図5に示しました。あくまで私見です。異論・反論もあるでしょう。法規制そのものではないので、コンプライアンスを問うものでもありません。読者の皆様方に、「うちの会社はどうかな?」と時間の合間に考えてもらう程度で良いと思います。


図5:医薬品品質に係る企業の部署・職員としての十戒


本話、かなり以前から原稿をしたためていたシロモノです。「なぜ今頃に?」と問われれば、「何事も、ときに初心に戻って考えてみることは大事」という筆者の考え方が根幹にあります。GMPも、ときに初心に戻って各要件を読み直してみては、いかがでしょうか? 思いの外、「こんなことが言いたかったのか?」、「こんなことが求められていたのか?」との気づきがあるかもしれません。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
本話執筆の裏話
本話、実のところ、2024年12月掲載のつもりで過去の原稿を修正していた。しかし少し進めた時点でハッと気づいた。十戒って、大元はキリスト教でなくユダヤ教だったと。そのため、クリスマスを控える12月掲載は相応しくないと。
そもそも米国留学時代の友人の一人はユダヤ系アメリカ人であり、クリスマスカードは贈って来るが、一般的に記される「Merry Christmas」や「Happy Christmas」ではなく、「Happy Holiday Season」と記したグリーティングカードである。彼らもクリスマスシーズンをお祝いはするが、“Christmas”と書くと宗教的な意味合いが出るため、決してその言葉は書かず、単なる“文化”としての楽しみの一環としているだけである。
ユダヤ教の別の祝日としては「ハヌカー」なるものがあり、クリスマスの時期に重なることが多く、この時期にユダヤ人はハヌカーを祝うと言われている。友人一家がハヌカーをお祝いしているかどうかは知らないが、こちらから贈るクリスマスカードには気遣いが必用となる。
さらに言えば、クリスマスカードだけではなく、食べ物にも注意が必要である。その友人とその家族が来日した際には、(それが出汁であっても)豚肉を使っていないかどうかを必ず確認して注文したことを思い出した。このGMPPアーテイクルの中にも、「ハラルの基礎とハラル認証」と題した連載があるが、イスラム教でのハラムとは違った意味での豚肉禁忌(経典での規定や神への従順の示し方に違いがある)もあるのである。
私を含め、多くの日本人は宗教的なバックグラウンドを知らずにお祭り気分でお祝いする。良く言えば寛容とも言えるが、悪く言えば無頓着、もっと悪く言えば無知である。一番分かり易い例が、ハロウィンじゃないだろうか。ただ、外国の方を相手にする際は、相手の信仰にはちょっとした気遣いが必要だと思っている。そんなこともあって、急遽、12月度の内容を変更した次第である。

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*1:世界雑学ノート「モーゼの十戒(モーセの十戒)」から
https://world-note.com/ten-commandments/
モーセの十戒 – Wikipedia
https://www.bing.com/search?q=%E5%8D%81%E6%88%92&form=ANNTH1&refig=c8aa16620d714497b49d1c40b3b72ea7&pc=PNTS&adppc=EDGEDBB

 

 

執筆者について

古田 ドマ

経歴 GMDPエッセイスト
2018年に薬業関係の某有名誌のオンライン版にコラムニストとして忽然と登場。製薬業界の内部事情に詳しく、特に監査業務に造詣が深いことから、医薬品の品質保証業務に従事していたものと推測されるが、その正体は不明。毒舌的な内容が多いものの、ヒューマニズムを掻き立てる心温まる物語的な内容のものもあり、歯に衣着せぬ物言いは実務担当者にとっての心の声を反映した本音トークとも言える。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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