【第3話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

医薬品不足対策に求められる“核心をついた議論に基づくメリハリのある対応”

6月初め(2024年)、私が長年所属するアマチュアオーケストラのコンサートが開催され、無事終了しました。今回、初めて女性の客演指揮者を迎えましたが、快活でユーモアがあり、その上サービス精神にも秀でていることから、十数曲を演目とするファミリーコンサートは大いに盛り上がりました。オーケストラ(以下、「オケ」)における指揮者の役割は、個々の奏者の演奏や演奏技術を改善し向上させることよりも、聴衆が聴いたときに最高の音楽として耳に響くよう、管絃の音量のバランスや、特に重要な箇所の明示や奏法の指導をすることにあります。つまり、指揮者の役割は楽章のパッセージごとに求められる強弱や遅速のメリハリを明確に表現できるよう指導し、楽曲全体として、聴く側が素晴らしいと感動する音楽に仕立て上げることにあると言えるでしょう。

この“メリハリをつける”ことの重要性は、オケにおける指揮者の指導や演奏だけではなく、世の中の多くのことに求められ、このことは長期化している医薬品不足の解消に向けて講ずるべき対策や、進め方においても例外ではありません。医薬品不足対策については有識者による検討会をはじめ、これまで多くの関係者により議論が尽くされ、改善に要する事項はすでに共有されていると考えられますが、今なお、共有済みの項目を総花的に述べた記事が散見される状況から、肝心の改善に向けての具体的な作業が期待したほど進んでいない状況が窺えます。科学論文における総説を著すことの重要性は言うまでもありませんが、医薬品不足解消に今求められているのは論説ではなく、改善対策のための“核心を突いた議論と打つべき対策の明確化と実行”です。

現在の深刻な医薬品不足は、2021年初めの小林化工のクラスⅠの回収報道に端を発し、それに続発する後発医薬品の製造所の違法製造事案により、急速に状況が悪化し今に至っていますが、三年半が経過した今も顕著な状況の改善が見られていないのが現状ではないでしょうか。政府の製薬企業への風邪薬等の増産要請が幾分か功を奏しているかに見えますが、実効性が期待できる根本的な改善策が講じられている状況にはなく、インフルエンザを含め風邪症状を伴う患者が増えると、咳止め薬や去痰剤不足に転じるというという不安定な状況にあるのが、現在の姿と推察されます。

医薬品不足解消のための “核心をついた議論に基づくメリハリのある対応”が、早急に求められる課題の一つは、“変更管理の困難性の解除”です。このことは繰り返し述べてもきていますし、関係の識者の間でもすでに周知で、欧米に倣った制度への改革を含む議論もすでに進められています。しかし、未だ行政通知などの具体的な形として、結論が示されるという状況には至っていません。変更管理の不備が原因で製造記録の虚偽記載などに至り、結果として、違法製造と認定され、回収や業務停止を招いている状況は誰もが認識していることです。

 

 

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