【第2話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

原薬の安定確保と“性状”の評価


現在の医薬品不足は医療費抑制を目的とした後発医薬品の過度な使用促進策など、医療・厚生の行政施策を含む様々な要因が絡む構造的な問題に起因すると考えられますが、“原薬の安定確保”を障害する諸問題も無視できません。先般、東京ビッグサイトで開催された“CPHI-2024”の初日(4月17日)には、この“原薬の安定確保”を目的としたパネルディスカッション「ジェネリック医薬品原薬の品質・安定供給確保の維持継続に向けて」が行われました。

この中で、海外原薬の調達が円滑に進まなくなってきている理由の一つとして、外国の原薬メーカーから見ると、日本の製薬企業の“原薬の品質”への要求が他国に比べ厳し過ぎ、このことがビジネスに影響し、海外原薬の円滑な輸入の障害になっているとの意見がありました。このことを会場からコメントされた方は、日本薬局方(JP)などの公定規格に上乗せされたこの厳しすぎる要件を“規格外の規格”と表現し、その代表例として“性状”をとり上げ、外観検査で色が少し違っただけでも不適として受け入れない日本企業の現状を指摘されました。この見解に対して会場やパネラーから共感を示す声も聞かれましたが、性状の変化や差異を原薬の品質評価から外せるかと言えば、一概にそうとは言えず、慎重に対応する必要があるのではないかと思われます。

新規に原薬調達を検討する場合、使用する製剤への適性を視野に入れて品質評価を進める必要があることから、製造販売承認書に記載する“JP”等規格への適合を前提に、“製剤適性”(或いは“製剤化適性”)を確保するための粒度分布や溶解性など物性面に関して、上乗せ規格(規格外の規格)を設定することが場合によって必要となります。この“上乗せ規格”を原薬製造所に要求すると、当然、コストと納期への影響が出るので、そこは双方で慎重に議論し妥協点を見つける必要があるでしょう。

また、“性状”は原薬品質の評価判断基準の対象項目から外されていることもあり、受け入れ時の評価基準(規格)から除外するという考えもあるかと思いますが、性状の差異(変化)が品質に関係(影響)する場合も少なくなく、そこは慎重な対応が求められます。“性状の変化”から品質の劣化を察知することは医薬品の品質管理においては一般的であり、このことを踏まえると五感に頼る“性状”の評価は軽視できないでしょう。確かに、外国人から見て、“日本人の品質への評価(品質への要求水準)は厳し過ぎる”、かも知れませんが、見方を変えれば、このような五感による繊細な品質管理を日常的に実践していることにより、海外から一目置かれる“日本品質”が維持できているという考え方もできます。

“ビジネスと品質”、どちらも大事ですが、医薬品の品質確保は人命に直結することから、基本的にビジネスを優先するわけにはいかないでしょう。しかし同時に、必要以上の品質管理(過剰品質)にならないことへの留意も大切です。上記のCPHI会場においても、“100%はない”(品質保証において)というコメントがなされ、このことは“過剰品質”への警告とも受け取れますが、医薬品製造業者としては、品質管理の不備により製品回収を招き業務停止に至るようなことがあれば、医薬品不足を助長することになり元も子もありません。要点を押さえた、目的に適った、合理的かつ実効性のある品質管理が求められる所以です。
 

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