ラボにおけるERESとCSV【第115回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(85)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ QQQQ社  2023/3/21
施設:製剤工場(無菌)

■Observation 4
品質管理部門は発生したエラーを十分に調査していない。

★解説
FDA cGMPは以下のように規定している
§211.192 製造記録のレビュー (抜粋)
以下の場合、完全な調査を行うこと。(バッチが出荷されたか否かは問わない)
  • 理由が分かっていない不一致(所定の収率に入らない場合など)
  • バッチが規格外
  • バッチの材料が規格外
この調査は同じ品目の他バッチ、あるいはこの不一致や規格外に関連する品目にまで拡張すること。この調査は記録し、調査記録には結果とその後の対応を含めること。


■Observation  4 A)
分析中に明白なエラーが発生した場合、QC監督者の口頭承認のもと分析者はデータを再処理してよいとSOPに規定されている。再テストや不適切な手動積分を分析者が行うことを制限するよう規定していない。都合が悪いあるいは規格外になるようなラボエラーを再分析や再処理をする場合、前もって品質部門が調査する確実な仕組みがない。

★解説 OOSの対応
OOSが発生した場合の処理が不適切であると、不都合事象の隠蔽や良いとこ取り操作を疑われデータインテグリティ指摘を受けてしまう。FDAは「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」においてOOS処理のガイダンスを示している。このガイダンスにはその根拠法令(連邦食品・医薬品・化粧品法、cGMP)も記載されている。またFDAのOOSガイダンスを補足すべくMHRA(英国医薬品庁)が発出したOOS/OOTガイダンス「Out of Specification & Out of Trend Investigations」は、フローチャートや事例により具体的な処理ステップを表示しており大変判りやすい。これらのガイダンスを参照し、適切なOOS処理手順を策定すべきである。

★解説 FDA OOSガイダンスの抜粋概要
cGMP §211.192はOOSテスト結果を必ず調査するよう求めている。 

  • その調査の目的は、OOSとなった原因を確定することである
    • OOSとなった原因を以下のどちらかに切り分ける
    • 測定における異常
  • 製造における異常
  • OOSを理由としてバッチが棄却されたとしても、同一品目の他バッチあるいは他品目にOOS結果が関連していないか調査する必要がある
  • 規制(§ 211.192)は以下を求めている。
    • この調査は記録すること
    • 調査記録には結果とその後の対応を含めること

本ガイダンスの対象はOOS結果であるが、多くの部分はOut Of Trend(OOT)の調査にも役に立つ。

ラボにおける初期調査において;

  • ラボデータの正確性を初期評価すること
    • 可能であれば、テスト調製サンプルを廃棄する前に初期評価を行うこと
    • テスト調製サンプルには、混合試料や単一試料を含む
    • テスト調製サンプルがあれば、ラボエラーもしくは機器異常に関する仮定を調査できる
  • 分析におけるエラーが初期評価において見いだせなかった場合
    • OOSフル調査を行うこと (フェーズ2:フルスケールOOS調査)
  • 試験受託機関の場合
    • 初期評価のデータ、所見、周辺資料を製販業者の品質管理部門(QCU)へ伝えること
    • 製販業者のQCUはOOSフル調査を開始すること
上記の詳細は、ファームテクジャパン2018年2月号において紹介したので参照されたい。
データインテグリティ実務対応の留意点 その3
FDAのOOS調査ガイダンス概要とデータインテグリティ対応
Vol.34 No.2(2018)

 
なお、当ガイダンスは2022/5に16年ぶりに改定された。
 https://www.fda.gov/media/158416/downloa
その改定のポイントを以下にまとめる。
  • 些細な文言の修正がなされた
    Quality Control UnitがQuality Unitに変更された
    (品質管理部門→品質部門)
  • Outlier(外れ値)はOOSとは切り離して取り扱うよう変更された
  • 結果を平均する試験法における個々データに対するOOSの考え方が追記された

Outlierとは;

  • 統計学において、他の値から大きく外れた値のこと。測定ミス・記録ミス等に起因する異常値とは概念的には異なるが、実用上は区別できないこともある。(Wikipedia)
  • データが極端に大きいまたは小さいデータであり、かつ少数のデータのことを外れ値と呼ぶ。外れ値は統計解析を行う上で大きく影響することもあり、解析から除外した方が良いという考えがあった。(日本理学療法学会連合)

★解説 調製サンプルの保存
上記FDAガイダンスから、QA承認が完了するまでは調製サンプルを保存しておくのがよいと読み取れる。ただし、いつまでも保存しているとFDA査察において指摘されるので、保存した調製サンプルの廃棄規定を定めておくべきである。

★解説 手動積分について
「不適切な手動積分を分析者が行うことを制限するよう規定していない」と指摘されている。HPLCやGCにおける手動解析や再解析を担当者の独断で開始してはいけない。手動解析や再解析を実施してよい条件を手順書に規定し、データレビューにおいて手動解析/再解析の妥当性を確認する必要がある。手動解析/再解析のデータレビューにおいては監査証跡を含む電子記録を参照し、データの良いとこ取りになっていないなどを含め手動解析/再解析の妥当性を精査する必要がある。手動解析や再解析を実施してよい条件は下記文献が参考になる。
PDA Technical Report No. 80 
"Data Integrity Management System for Pharmaceutical Laboratories"
 6.3.7 "Data Processing and Peak Integration"
https://j-pda.jp/wp-content/uploads/2020/12/tr-80sample.pdf


■Observation 4  B)
システムの性能を確認するために、テストインジェクションを5回まで実施してよいことがHPLC操作SOPに規定されている。システム適合性テストと本番インジェクションの後にこのテストインジェクションを実施することの合理的説明がなされなかった。テストインジェクションが実施された回数をどのように把握しているのか不明確であった。また、各テストインジェクションの合理性を確認しているのかも不明確であった。本査察を実施した時点において、すべてのテストインジェクションをしっかりレビューしておらず、テストインジェクションは標準液もしくは既知溶液に対してのみなされていることを保証できていなかった。

★解説
「システム適合性テスト、そして本番インジェクションを実施した後に、システムの性能を確認するために最大5回までのテストインジェクションが許されている」とのことである。本番インジェクションの後にシステム適合性テストを再度実施して、システム適合性が本番インジェクション後も維持されているのを挟み込みで確認するのであれば問題はないと思われる。しかし「5回まで許容されるテストインジェクション」とは、「必要に応じ」テストインジェクションを5回まで実施してよいとのことであるので、このテストインジェクションはシステム適合性維持の確認テストとは思えない。テストインジェクションの合理的説明がなされなかったことより、査察官はこの規定を以下のように解釈したものと考えられる。
① 本番インジェクションの結果が期待通りではなかった場合
② 期待通りではなかったサンプルのテストインジェクションを最大5回まで実施し
③ テストインジェクションにより期待通りの結果が得られたなら
④ 期待通りの結果ではなかった初回インジェクションの結果に代え、テストインジェクション結果を採用できる
⑤ つまり、良いとこ取りの再テストを現場だけの判断で実施できる
⑥ これは明らかにOOSのガイダンスと相いれないものである

 


 

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