医薬品のモノづくりの歩み【第31回】

執筆者関連書籍「医薬品製造におけるモノづくりの原点と工場管理の実践

生産性を評価するための製造原価について(3)

 今回も、標準原価を基準にした原価管理についてお話を続けます。
原価管理とは、前回の連載において、実際の製造で発生した原価と基準となる標準原価との間に生じた差の発生原因を調査して改善に結び付けることであり、更に、製造で起こる様々な変化を原価の変化として捉えて、その変動の大きさや利益への影響を評価することであるとお話ししました。ここで、ポイントは〝製造で起こる様々な変化を原価の変化として捉える″ことにあります。その原価の変化を金額で表したのが「原価差異指標」と言われるものです。そこで、本連載の中では、原価管理で用いられる「原価差異指標」の話をするために、一旦、製造原価の3要素に話を戻して、標準原価の設定について少し触れてから進めていきたいと思います。

 製造原価の構成は、第21回、第29回連載記事の中で原材料費と労務費、間接費の3つの要素に分けられることを紹介しました。標準原価は、表1に示したように、その構成要素ごとに算出するために必要な原価情報を収集して、科学的、統計的な根拠データのもとに製品毎に設定されます。

表1 標準原価を算出するための原価情報 

例えば、ある製品の標準原価の直接原材料費を算出するために、その製品の製造で使用される全ての直接原材料の購入単価と投入量、製造後の歩留まり(標準収率)の情報が必要になります。直接労務費では、その製品を製造する工程に必要な作業時間と直接作業者の標準賃率が必要です。最後の間接費では、総額を品目やロットに按分する必要がありますので(第29回連載記事)、経費予算総額と配賦基準が必要となります。
 では、この標準原価を算出する情報を元に、本題の原価管理で用いられる原価差異指標について、製造原価の3要素ごとに話を進めましょう。
 まず、原材料費で発生する差を評価する指標です。製造に用いられる直接原材料において、標準購入単価と実際の購入単価との間に価格差が発生した場合、その差に購入数量を乗じた「購入価格差異」と呼ばれる指標があります。期の途中でメーカーとの価格交渉によって原材料費の変更が発生した場合にはこの指標で評価されます。もう一つ「数量差異」という指標です。これは、標準原価を設定する際に用いた標準の歩留まり(収率)に対して、実際の歩留まり(収率)との間に差が発生した場合、その差に原材料単価(製造するために投入したすべての原材料の合計投入数量と合計金額で算出される単価)を乗じたものです。つまり、製造時のトラブル発生などにより不良品が増えたり、技術改善により歩留まりが増加した時などに、この数量差異を用いて評価されます。いずれにしましても、直接原材料費に関係するこの指標は、実際の製造で得られた出来高など、そのまま利益に直結する大事な指標となります。
 次は労務費です。製造原価で言う労務費は、言うまでもなく製造にかかわる直接作業者の人件費で、作業時間と時間当たりの労務費(賃率)を乗じたものになります。ここで、製造で生じる変化に関係するのが作業時間です。標準原価の算出で設定された標準作業時間と、実際に要した作業時間との差に賃率を乗じて、金額に換算した「能率差異」が用いられます。所定の時間内で作業が終了した場合、〝能率が上がった″、予定より時間が伸びた〝能率が下がった″とよく言われますが、この指標はここからそのように呼ばれています。

 

 

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