【第7話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

経営陣のリーダーシップと品質意識の向上

先日、俳優の西田敏行さんがお亡くなりになりました。親しみやすい人柄と類まれな演技力により、長きにわたり多くの人に慕われてこられただけに、この突然の訃報に驚かれた方は少なくなかったのではないでしょうか。西田さんが主演あるいは出演された映画やドラマはどれも人気がありましたが、中でも『釣りバカ日誌』は名作であり、繰り返し見ても笑える数少ない映画ではないでしょうか。出張に便乗して全国各地を旅し、旅先のそれぞれの地で釣りを楽しむというこの映画では、当然のことながら釣り船がよく出てきます。今回は、こういった釣り船のような小型の船ではなく、大型船舶のエンジンの性能試験にまつわる不正事案に関連して、品質確保について考えたいと思います。

10月30日(2024年)、IHI(旧社名;石川島播磨重工業)は、子会社(IHI原動機)の船舶エンジンの試験に関するデータ不正に関し、再発防止策を発表しました。本事案は今年4月に公表されましたが、不正行為は数千件にのぼり、燃料消費率(燃費)の実測値の改ざんのほか、大気汚染物質(NOx:窒素酸化物)の排出量の計測試験における記録の虚偽記載なども認められています。この状況に対し、特別調査委員会は報告書の中で、品質意識の低さや、企業としてのガバナンスが機能していない旨の指摘を行いました。IHIはこれを受けて、計測・記録の自動化、規格外結果が出た場合の対応方法などを軸に再発防止策を立案し、今回の発表に至った模様です。

日本を代表する大手企業が関係する品質管理に関するデータ不正は、これまでにも自動車や鉄鋼など多くの産業領域で発生しており、例えば、今年7月に発生した豊田自動車の型式指定申請に際する不正などは記憶に新しいところです。こういった不正行為の発生は、その多くが上記の指摘のように職員や経営陣の品質意識の低さや、組織のあり方(不利な情報の流れが悪いことなど)に依拠すると推察されます。大手企業には基本的に優秀な人材が集まることから、一般に、必要な技術や知識といった面では遜色がないと考えた場合、問題視されるのは仕事に対する取組み姿勢や品質確保に向けての組織としての対応、つまり、“個々人の品質意識”や“企業組織としてのガバナンス”のあり方といったことに帰結することから、これらに着目した対応が重要になることは容易に理解されるでしょう。

こういった考え方は、医薬品の製造・品質管理の領域においても重視されていることはすでに周知であり、承認書を逸脱する違法製造が多発する中で繰り返し指摘され、最近では“品質文化”といった用語も交え、品質意識の向上や企業ガバナンスの改善・強化が促されるといった状況にあります。しかしながら、特に老舗の大手企業などの、長きにわたって醸成されてきた体質や風土といったものはそう簡単に変えられるものではなく、その状況の中で、製造や品質管理の組織における改善や改革も期待されるほどは進展していないのが現状ではないでしょうか。例えば、現場の改善活動などにより一時的に改善が見られても、管理者の交代や時間の経過の中で、元の状態に戻るという現象はありがちであり、改善・改革を確たるものにするのは容易ではありません。

 

 

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