ドマさんの徒然なるままに【第72話】Good Practices・Part 2

第72話:Good Practices・Part 2

Part 2のはじめに
GMPの話をしていると、「GMP省令とPIC/S GMPでは●●が違う。」といった相違点ばかりを言いたがる方を見受けます。確かに違いはありますが、そういう方に、「では、同じ点はどこですか?」と尋ねてみたい。違いに気づいたら「彼はGMPをよく勉強している。」と思われがちですが、本当にそうでしょうか。率直に言って、相違点は共通点・類似点よりも目立ちますし、少ないからなんじゃないかと思っています。大事なことは大多数の共通点であり、必須だからこそ、どのGMP(GMP省令、PIC/S GMP、cGMP、WHO-GMPといったことです)であっても要件として記述されているんじゃないでしょうか。そんな要件だからこそ、「●●しなければならない」の強度(拘束力)が強い。だとしたら、その本質を自分が理解しやすいように、日常の作法や趣味・好みの領域のたとえに置き換えて、納得して運用してみたっていいんじゃないかと思うのです。

なお、「⇒ ●●」として記したものは、GMDPの中で要件や用語として出て来るものを示しています。
 


● 賞味期限、消費期限
  ⇒ 使用期限、安定性試験、リスクマネジメント
賞味期限を気にしないで食べますか? 20%以上の割引になっている明日までの賞味期限品しか買わないってか。普通は「あっ! 安い。買っておいてそのうち食べよう。」と思って買うんじゃないでしょうか。そんなこともあって、食べるまで余裕の期間を考慮して、賞味期限や消費期限を意識にして買いますよね。あくまで食品の話をしていますので*1、医薬品と同じとは言いませんが、意味としては(安定性試験に基づく)使用期限と同じですよね。さらに言えば、腐ってしまったものを食べて食あたりしてしまったなんてことを避けたいですよね。これって、自分の体に対するリスクマネジメントとも言えますよ。


● 二度買いしてしまった物の食べる順番
  ⇒ 先使用期限先出し、先入れ先出し
以前に購入したことを忘れ、本日のお買い得品という表示から、また買ってしまったなんてことはありませんか? その際、普通は以前購入したもののほうを先に食べますよね。理由は賞味期限(消費期限)が早いからですよね。この賞味期限の早いモノを先に食べる行為って、「先使用期限先出し(First Expire First Out:FEFO)」ですよね。以前は「先入れ先出し(First In First Out:FIFO)」と言っていましたが、(安売りスーパーなどで多い)特価として後入荷したロットのほうが使用期限が早い、なんてこともあるので、現在では明確に「先使用期限先出し」としていますけど、やってることは在庫管理であり、同じなんじゃないですかね。
ちなみに、賞味期限が見やすいようにキチンと冷蔵庫を整理しておいたほうが良いですよ。現在ではバーコード管理されたパレットに積載した上で物品ごとのバーコードでのダブル管理が一般的になりましたが、以前はマニュアル管理であったために「原材料・製品については表示(ラベル)を見やすいように前向きに保管しておく」といったことしていませんでしたか。GMPでは査察・監査時の倉庫管理のチェック項目でしたからね。
《注》ちなみに、物流の世界では、「後入れ先出し(Last In First Out: LIFO)」なんてのもあります。
 


● 冷蔵品、冷凍品
  ⇒保管管理、安定性データ、表示
買って来た食品、冷蔵品や冷凍品は、それぞれどこにしまいますか? 普通は、冷蔵品は冷蔵庫、冷凍品は冷凍庫にしまいますよね。室温保管で良い物だって、「直射日光、高温、多湿をさけてください」といった表示がありますよね、そもそもスーパーだって、食品ごとにそれぞれを区別して陳列してますよ。
それが、GMP管理としての分類と言ったとたんに、「面倒くさい」とか「分からん」とか言い出す自分が恥ずかしくないですか?


● 冷蔵庫内の場所
  ⇒温度管理、温度マッピング、クオリフィケーション
さて、購入した冷蔵品、当然冷蔵庫内にしまいますよね。お宅の冷蔵庫、場所(位置)によって温度差はありませんか? 我が家の冷蔵庫、古いせいか、送風口の前に置いておくとペットボトルの飲み物などが凍ってしまったりします。状況としては、冷凍庫みたいになっているとしか思えません。
この庫内の温度のバラツキ、クオリフィケーションされていない結果でしょうが、医薬品の冷蔵保管としてのGMPやGDPであれば温度マッピング不備という指摘になってしまいますね。
冷蔵庫内で凍結してしまったペットボトルのドリンク、夏場はシャリシャリして美味しいって!? バカおっしゃい。これが「禁凍結」のインシュリン製剤や血液製剤だったら廃棄処分になってしまいますよ!


● 調理済みの鍋
  ⇒ Dirty Hold Time(DHT)、洗浄バリデーション
油汚れも使用直後に洗うと楽ではないですか? 分かり易い例としては、カレーを作った鍋でしょうか。鍋の内側に残ったカレー、温かいうちにキッチンペーパーなどで拭き取れば、さらには鍋が冷めないうちにお湯でザーッと洗い流せば結構おちるのに、一晩放置し翌日に洗おうと思ったら、ガピガピにこびりついて、洗剤くらいじゃおちないなんてこと、経験ありませんか? 
こういうのを、GMPの洗浄バリデーションでは「Dirty Hold Time(DHT)」と言います。「Dirty Pot Theory」などとも言われます。洗浄バリデーション時における、使用後から洗浄開始までの時間を指します。
我が家では、残りかすがあっても気にせずに次の調理に使うって? お宅と一緒にしないでくださいな。少なくとも、筆者は勘弁して貰いたいです。申し訳ありませんが、それって、前Part 1の「味の異なる複数の食品」の項でも述べたように、クロスコンタミの部類ですよ。


● 古い食器、初めて使う食器
  ⇒ Clean Hold Time(CHT)、洗浄バリデーション
古い食器は洗ってから使いませんか? 滅多に使わない食器ってありますよね。前回使ったのが、1年以上前とかいうものです。それが食器棚にしまってあったとしても、普通は洗ってから使いませんか? 前回洗ったから大丈夫だって? 確かに残りかすは無いかもしれませんが、そんな食器って、逆に言えば、お客様が来た時くらいしか使わないということなんじゃないですかね。客には分からないから大丈夫だって? お宅、サイテーですよ。
新品の食器は? まだ使っていないから問題ないって? すいません、お宅の客にだけはなりたくありません。
こういうのを、GMPの洗浄バリデーションでは「Clean Hold Time(CHT)」と言います。元々は、無菌製剤・無菌原薬の設備における洗浄後放置時間(残留物ではなく、微生物の繁殖可能性)を言っていましたが、現在では監査や査察で非無菌製剤等でも、クリーンルームの環境モニタリングと相まって*2同様の確認がなされたりすることがありますので、ご注意ください。


● 初めて買う道具、使う道具
  ⇒クオリフィケーション(DQ, IQ, OQ, PQ)
初めて買う道具について、どんな形状か、どんな性能か、といったことを調べもせずに買いますか? さらに、自宅での置き場所や並べ方といったことを考えませんか? 前者は、GMPで言えば「Design Qualification(DQ)」に相当する作業ですし、後者は、「Installation Qualification(IQ)」に相当する作業ですよ。
買った後では、お試し運転や空運転をしませんか? いきなり本チャン使用の場合もあるでしょうが、初めてのモノであれば、普通はお試しをしますよね? これは、GMPで言えば「Operational Qualification(OQ)」そのものですよ。さらに、本チャンのつもりで、様子見しながら、注意深く使ったりしませんか? これこそ、GMPで言えば「Performance Qualification(PQ)」ですよ。
実のところ、本人も気づかずに、“クオリフィケーション”しているものです。 


● 出来るようになるまで行う作業や運動
  ⇒プロセスバリデーション
鉄棒の逆上がり、子供の頃にお父さん(お母さん)の協力の下で頑張りませんでしたか? 何度も失敗したのが、ある時に成功したりしませんでしたか? その1回ぽっきりで止めました、という人はほとんどいないと思います。何となくの感触をもって、その後に何回も繰り返してコツを覚えたんじゃないですか? 
自転車もそうですよね。補助輪を外して、恐る恐る親に後ろを掴んで貰いつつ、いつの間にかお父さん(お母さん)の手を離れて独りで走っていませんでしたか? 
自分で出来るまで、納得のいくまで継続していく姿、これが日本語で言う「検証」ですし、GMPで言う「プロセスバリデーション」ですよ。できるようになるまで3度どころじゃない、数えきれないほど繰り返したって? その通りですよ。プロセスバリデーションで言うところの「3回連続の成功」なんて、科学的には意味のない(根拠のない)数だという証拠です*3


● 受験に向けての受験勉強
  ⇒ベリフィケーション
表現はよろしくありませんが、一番良い例は受験勉強でしょうか。誰だって受験で合格したいですよね。そのために、必死で勉強しますよね。これって、まったく同じとは言いませんが、GMPで言えば「ベリフィケーション」に近いものだと思います。ベリフィケーション、よく誤解されますが、結果オーライでの評価じゃありませんからね。受験だって自分なりに必死で勉強してきた結果として合格したはずです。「結果オーライでラッキーだったね。」なんて言われたら、むかつきませんか。ベリフィケーションも同じです。結果オーライで行う行為でも、結果だけで評価される行為でもありません。あくまで実験室レベルであれ何であれ、それまでやってきたことの“検証”としての確認行為です。だから、失敗ということもあります。失敗したら、それをネグってやり直せば良いってか。そういう作為的な操作はベリフィケーションとは言わないんですよ。そこんとこは、勘違いなされないようにしてくださいね。
 


全体のおわりに
どうでしたでしょうか? GMPで言えば色々な要件に相当するようなこと、日常生活の中で結構やっているということに気づきましたか? 多くの方々、実は本人も気づいていないだけで、普段やっています。そんなことで、前話Part 1と本話Part 2に亘って、Good Practicesは特別な行為じゃないとお伝えしたかっただけです。GMPだ、レギュレーションの要件だ、なんて意識するから、ギチギチに捉えすぎて重くのしかかるのです。「指摘を受けちゃうからキチンとやらなきゃ!」というプレーシャーが自身への負荷となるために、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」といった感じで、自身の想いとは裏腹に「他社動向に合せて理由もなく何となくやっている」という状況を招来してしまっている可能性があるんじゃないですか。

前話Part 1と本話Part 2、こじつけと捉えたい方はそれで構いません。筆者は、これらの話としてGMPの教育をしているつもりはありません。単に「難しい」とか「分からない」という方に対して、「あんた、やってるじゃない」と言いたかっただけです。本話のタイトルに付けた「Good Practices」、別に医薬品製造だけの話じゃないですよ。普段の生活で普通にやっていることこそがGood Practicesですよ。難しく考え、複雑にしているのは、あなた自身ですよ。法規制として求められるGxPの本質は、普段やっていることの中にあると信じています。そうでなきゃ、「医薬品だから・・・・」と言うのは、患者さんへのリスクを考慮した上での法規制だとしても理不尽な話なんじゃないですかね*4。ちなみに、もしGood Practicesの意味として最も適切な日本語は何ですかと問われたら、「良心に基づく行動」と答えます。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
パリパラリンピック
パラリンピック、いつから始まったのか気になったので、ウィキペディアを調べたところ、1948年7月28日、ロンドンオリンピック開会式と同日に、イギリスのストーク・マンデビル病院で行われたストーク・マンデビル競技大会が起源のようである。当初は、戦争で負傷した兵士たちのリハビリテーションとして「手術よりスポーツを」の理念で始められたものであったようだ。1960年には国際ストーク・マンデビル大会委員会が組織され、この年のオリンピックが開催されたローマで、第9回国際ストーク・マンデビル競技大会が開催され、これが第1回パラリンピックとされているらしい。その後、オリンピックとの関係での紆余曲折を経て、さらにシンボルである現在の「スリー・アギトス」も設定されたとのことである。ちなみに、アギト(agitō)とはラテン語で「私は動く」という意味でパラリンピックムーブメントの象徴とされており、パラリンピックのモットーは「Spirit in Motion」と定められているらしい。
何らかの障害を負った選手たち、精神的(正確には性格的かな?)にはともかくとして身体的には健常と言える筆者(ただし立派なメタボです)でも出来ないことを平然とやっているその姿、身体的障害を感じさせないほど健常人を超越しており、アンビリーバブルとしか言いようがない。メダル獲得の有無に関わらず、その戦う姿は、障害を伴う方々をどれだけ勇気づけることか、想像に難くない。そんな勇気を与えているだけで金メダルレベルなんじゃないでしょうか。
そんな中、「お前は何かした? 何かしている?」とちょっと恥ずかしく感じる自分がいる。スポーツとして何も出来ない自分、せめて仕事だけは「良心に基づく行動」としてGood Practicesしたい。前話と本話の主旨であるGood Practices、とりわけGMP関連の読者の皆さんに説教することをお許しいただければ、「面倒くさい」だとか「そこまでやる必要あるのか」といったこと言っている自分が恥ずかしくないですか。少しはパラリンピックの選手たちの爪の垢を煎じて飲んでみたらいかがでしょうか。

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*1:参考通知
・消費者庁ウェブサイト「食品の期限表示に関する情報」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/expiration_date/
・平成17年2月付け 農林水産省・厚生労働省「食品期限表示の設定のためのガイドライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/expiration_date/pdf/syokuhin23.pdf
・平成21年11月2日付け消食表第75号「消費期限又は賞味期限の適切な取扱いについて」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/notice/pdf/syokuhin53.pdf
 

*2:クリーンルームの環境モニタリングで逸脱が生じた場合は、浮遊微粒子も含めて、その中に設置されていた設備や器具等が汚染されている可能性も否定できません。その点は認識しておいたほうが宜しいかと思います。

*3:本邦のバリデーション基準でもPIC/S GMP(Annex 15)でも「3回連続の成功」が要件として求められています。米国では、相当する行為は「Process Performance Qualification(PPQ)」とされ、3回繰り返しについては言及されておらず、続く「Continued Process Verification」での検証が求められます。
《参考》2011年1月/米国FDA Guidance for Industry「Process Validation:  General Principles and Practices」
https://www.fda.gov/media/71021/download
《参考》GMP Platformアーティクル/中尾明夫「プロセスバリデーションについての考察」

*4:敢えて言いますが、「医薬品だから・・・・」の文章、誤解をなさらないようにしてください。筆者の言い分は、それが機能性表示食品であっても、通常の食品であっても、医薬品や食品以外のどんな製品であったとしても、“Good Practices”は製品を製造・販売する者の必須要件(条件)だと言いたいだけです。筆者としては、法規制としてのGxP、特に医薬品に対するGMP、生命に直接危害を及ぼすリスク(健康被害)が高いということは理解するものの、コンプライアンスということを隠れ蓑にして本来の自発的行動を見失わせてしまい、Blind Complianceや医薬品以外の製品との使い分けを助長する可能性が高いと危惧しています。小林製薬における「紅麹」の事件、率直に申し上げますが、この手の“使い分け”を示唆しているんじゃないでしょうか。

 

 

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