細胞加工施設運営における『経年劣化・老朽化』への対応【第6回】

2019/08/16 施設・設備・エンジニアリング

臨床用にであれ研究用にであれ、ヒト細胞の調製、加工、製造を実際に行うには「細胞加工施設」と呼ばれるハードウエアが必要である。細胞加工施設は一般にCPC(Cell processing center)やCPF(Cell processing Facility)とも呼ばれており、再生医療分野での取り組みを行う上では、必須の施設だ。本稿では以下、CPFの略称を使用する。
昨今、大型建造もあちこちで見られるCPFについて、本稿では長期使用時の経年劣化や老朽化の兆候、それら現象への対応、管理法など実務的な側面を6回に分けて論じてきた。最終回となる今回は、CPFを管理する人間にとってのリスク変動を、少し長いスパンで考えてみたい。これはひとつのコストパフォーマンスにもつながる考え方だ。

▽リスクマネジメントを今一度考えてみる
 リスクマネジメントの考え方では、リスクを管理対象として扱うことで、不確定な状態に置かないことが基本だ。完全に取り除くことはできないことを前提に、リスクを洗い出し、分析し、対処法を検討、結果として最小化していかなければならない。CPFにおける製造の考えはリスクベースドアプローチの立ち位置をとっているため、運用そのものがリスク管理として機能している部分もあるだろう。
 ただ最小化といっても、いくばくかのリスクが管理されるために莫大なコストを背負うことは通常だれも許容しないわけで、そういう意味では「やればよい」というものではないのが、まさに「マネジメント」だ。そしてCPFそのものにおけるリスクを安定的な稼働ができなくなる不確定要素とすると、このリスクは経時的に増大することになる。もちろん、経年劣化のために。

▽リスクをなにで支払う(最小化する)か?
 通常の場合、製造リスクはコストで賄うのがもっともスタンダードな方法だ。年次のメンテナンスやバリデーションも、リスクを最小化するためのひとつの手段であるから、リスクが増えたなら、さらにコスト(作業)をかければ良い。たとえば、年に1度だった室外機の洗浄を2度に増やす、3年ごとに行っていたガス配管の耐圧試験を年次にするといった具合だ。そのようにして、ベネフィットに見合うリスクが賄えなくなったときに、製造施設は寿命と判断されることとなる。
 しかしもうひとつ、コストで支払う以外の方法がある。ここまでの連載でも幾度か出てきたような、リスクを「手間」と「経験」と「能力」、いわば人的ソフトウェアで支払うという考え方だ。
 CPFに限らず管理運用は常に、ハードウエアとソフトウエアを車の両輪のようにして進める。この時、人員の不慣れさなどからハードウエアに寄った運営をする部分、逆にハードウエア導入コストの高さから、比較的ソフトウエア頼みとなってしまう部分が当然出てくるだろう。
 前述のよう経年劣化によって経時的に増大するリスクは、主としてハードウエアに由来する。で、あれば、その部分をもしソフトウエアである程度抑えられれば、全体のリスクをマネージすることができる。
 実に、連載第3回、4回、5回目に論じたような具体的な手法は、このようなハードウエアリスクをソフトウエアで賄う方法だ。トラブルシューティングしかり、アナログ手段の併用しかり、初期の想定しかり。ソフトウエアの中でも特に人員のノウハウや経験値は、正しく管理運用がなされていれば経時的に蓄積される。つまり、ハードウエアリスクと反比例させることが可能なのだ。
 もちろん、経験によって裏打ちされる管理など、管理ではないという向きもあるだろう。それでも、「教育訓練」という言い方をすれば、これがソフトウエア運用において非常に重要であることは異論がないはずだ。

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執筆者について

鮫島 葉月

経歴 一般社団法人免疫細胞療法実施研究会事務局、株式会社日本
バイオセラピー研究所 事業推進部部長
慶応義塾大学大学院医学研究科(修士)修了後、2008年株式会社セルシードに入社。再生医療に係る臨床用細胞加工物の開発および品質保証を担当し、当時の細胞培養加工施設の運用整備(GMP準拠)に携わる。2012年(株)日本バイオセラピー研究所に入社、再生医療関連法に同社を適応させ、特定細胞加工物の製造許可を取得。新規の製造施設設計と運用構築、文書策定等を行い、年間3000バッチ以上の特定細胞加工物を製造する細胞加工施設の施設管理責任者を担っている。
一般社団法人免疫細胞療法実施研究会においては、研究会事務局として、再生医療等を行おうとする医療機関向けに申請サポートデスクを運営。すでに200以上の計画策定を支援している。
また当該法人にはICTA特定認定再生医療等委員会を設置し、委員会事務局として再生医療等の審査対応を行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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