細胞加工施設運営における『経年劣化・老朽化』への対応【第1回】
臨床用にであれ研究用にであれ、ヒト細胞の調製、加工、製造を実際に行うには「細胞加工施設」と呼ばれるハードウエアが必要である。細胞加工施設は一般にCPC(Cell processing center)やCPF(Cell processing Facility)とも呼ばれており、再生医療分野での取り組みを行う上では、必須の施設だ。本稿では以下、CPFの略称を使用する。
昨今、大型建造もあちこちで見られるCPFについて、本稿では長期使用時の経年劣化や老朽化の兆候、それら現象への対応、管理法など実務的な側面を6回に分けて論じていく。
初回である今回は、まず序段としてCPFの機能と管理、およびランニングコストといった部分を見渡しながら、CPFという建造物の概要としたい。
▽細胞加工施設とは
そもそもCPFというハードウエアは、細胞というある意味での「生物」を無菌的に扱うための担保となる、巨大な箱と考えられる。原料たる生体材料が無菌であるわけもなく、滅菌を施すわけにもいかず、出荷する最後まで生きたまま保持しなければならない再生医療等製品や特定細胞加工物は、これまで医薬品に対し行われてきたような品質管理が困難であるため、その製造工程において混入がなかったことを保証することで、ひとつの安全性における担保としている。勿論、混入の原因となる汚染の持ち込みは、作業者等のヒト由来がひとつの大きなリスクであるため、人員による持ち込みを最小限度とするための模索(アイソレータ使用や自動培養装置など)は続いている状況だが、基本CPFにおいては、可能な限り外部からの汚染持ち込みを防ぎ、適切に内部の汚染を取り除き、汚染があった場合拡散させず封じ込める、という機能が求められるのが現状だ。清浄度管理や室圧管理はこの目的のための手段であり、衛生管理や環境モニタリング、作業者教育にとどまらず、すべての運用は細胞の品質を守るために行なっていると言えるだろう。
また、製薬・調剤用クリーンルームや半導体工場などと比較しても、CPFはラインで製造を行っているとは限らないため、一時的な製造の停止がしにくいという特徴があり、トラブルの影響が非常に大きい。したがって
「気づいた時には空調CAVが老朽化していて、室圧が一気に外気圧並みに…」
などという展開は絶対に避けたいところである。
通常は二重、三重にフェイルセーフが組まれているため、施設環境が一気にブレイクするということは現実的には考えにくいが、製造中の施設環境が基準値を外れてしまえば、製造物に対する管理逸脱となり、培養中の細胞にも以降の出荷予定にも甚大な被害が及びかねない。CPFはその使用目的、特徴から鑑みて、安定した適切な管理が望まれる施設である。
▽CPFを運用するということ
かねてよりCPFは、細胞加工自体を行わずとも保持するだけで非常にコストのかかるハードウエアであることが知られている。これは、一度稼働させた施設の清浄度や室圧を保つため、たとえ製造が行えない状態にあっても、主電源を落とすことができない点がひとつ要因として挙げられる。一度停止してしまえば、施設にしても機器にしても稼働時適格性の検証(いわゆるバリデーション)を再実施しなければならないため、よほど長期の製造停止が見込まれない限り、CPFは動かし続けることが前提だ。
稼働施設は、規模によっては電気代だけでも年間数千万円のコストとなる上、動かしている限り、年次の定期的な検証とメンテナンスは必要になる。これに加えて、運用そのものに費用がかかる点が高コストのふたつ目の要因だ。管理エリアへの入室者は無塵衣を着用するため、アンダーウェアを含めたクリーニング代は常にかかってくる。また、落下菌・浮遊菌等の管理試験の実施費用も必要となる。さらに、機器の校正や定期点検、修繕の積み立て費を上乗せした場合、これらを十分に賄える細胞加工物の製造ボリュームを保持する施設は、国内でけして多くないのが実情だろう。「保持するだけで非常にコストのかかるハードウエア」であるだけならばまだしも、黒字食いの施設となってしまうケースも珍しくはない。CPFはイニシャルの建造費が高額であるがゆえに薄れがちだが、その後のランニングコストが非常に高くつくことも、考慮しておきたい。
そしてこのランニングコストが、年々増加していくこともだ。
昨今、大型建造もあちこちで見られるCPFについて、本稿では長期使用時の経年劣化や老朽化の兆候、それら現象への対応、管理法など実務的な側面を6回に分けて論じていく。
初回である今回は、まず序段としてCPFの機能と管理、およびランニングコストといった部分を見渡しながら、CPFという建造物の概要としたい。
▽細胞加工施設とは
そもそもCPFというハードウエアは、細胞というある意味での「生物」を無菌的に扱うための担保となる、巨大な箱と考えられる。原料たる生体材料が無菌であるわけもなく、滅菌を施すわけにもいかず、出荷する最後まで生きたまま保持しなければならない再生医療等製品や特定細胞加工物は、これまで医薬品に対し行われてきたような品質管理が困難であるため、その製造工程において混入がなかったことを保証することで、ひとつの安全性における担保としている。勿論、混入の原因となる汚染の持ち込みは、作業者等のヒト由来がひとつの大きなリスクであるため、人員による持ち込みを最小限度とするための模索(アイソレータ使用や自動培養装置など)は続いている状況だが、基本CPFにおいては、可能な限り外部からの汚染持ち込みを防ぎ、適切に内部の汚染を取り除き、汚染があった場合拡散させず封じ込める、という機能が求められるのが現状だ。清浄度管理や室圧管理はこの目的のための手段であり、衛生管理や環境モニタリング、作業者教育にとどまらず、すべての運用は細胞の品質を守るために行なっていると言えるだろう。
また、製薬・調剤用クリーンルームや半導体工場などと比較しても、CPFはラインで製造を行っているとは限らないため、一時的な製造の停止がしにくいという特徴があり、トラブルの影響が非常に大きい。したがって
「気づいた時には空調CAVが老朽化していて、室圧が一気に外気圧並みに…」
などという展開は絶対に避けたいところである。
通常は二重、三重にフェイルセーフが組まれているため、施設環境が一気にブレイクするということは現実的には考えにくいが、製造中の施設環境が基準値を外れてしまえば、製造物に対する管理逸脱となり、培養中の細胞にも以降の出荷予定にも甚大な被害が及びかねない。CPFはその使用目的、特徴から鑑みて、安定した適切な管理が望まれる施設である。
▽CPFを運用するということ
かねてよりCPFは、細胞加工自体を行わずとも保持するだけで非常にコストのかかるハードウエアであることが知られている。これは、一度稼働させた施設の清浄度や室圧を保つため、たとえ製造が行えない状態にあっても、主電源を落とすことができない点がひとつ要因として挙げられる。一度停止してしまえば、施設にしても機器にしても稼働時適格性の検証(いわゆるバリデーション)を再実施しなければならないため、よほど長期の製造停止が見込まれない限り、CPFは動かし続けることが前提だ。
稼働施設は、規模によっては電気代だけでも年間数千万円のコストとなる上、動かしている限り、年次の定期的な検証とメンテナンスは必要になる。これに加えて、運用そのものに費用がかかる点が高コストのふたつ目の要因だ。管理エリアへの入室者は無塵衣を着用するため、アンダーウェアを含めたクリーニング代は常にかかってくる。また、落下菌・浮遊菌等の管理試験の実施費用も必要となる。さらに、機器の校正や定期点検、修繕の積み立て費を上乗せした場合、これらを十分に賄える細胞加工物の製造ボリュームを保持する施設は、国内でけして多くないのが実情だろう。「保持するだけで非常にコストのかかるハードウエア」であるだけならばまだしも、黒字食いの施設となってしまうケースも珍しくはない。CPFはイニシャルの建造費が高額であるがゆえに薄れがちだが、その後のランニングコストが非常に高くつくことも、考慮しておきたい。
そしてこのランニングコストが、年々増加していくこともだ。
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