細胞加工施設運営における『経年劣化・老朽化』への対応【第2回】

 臨床用にであれ研究用にであれ、ヒト細胞の調製、加工、製造を実際に行うには「細胞加工施設」と呼ばれるハードウエアが必要である。細胞加工施設は一般にCPC(Cell processing center)やCPF(Cell processing Facility)とも呼ばれており、再生医療分野での取り組みを行う上では、必須の施設だ。本稿では以下、CPFの略称を使用する。
 昨今、大型建造もあちこちで見られるCPFについて、本稿では長期使用時の経年劣化や老朽化の兆候、それら現象への対応、管理法など実務的な側面を6回に分けて論じていく。
 2回目となる今回は、施設に見られる『静かなる病気』――Silent Diseaseというべき兆候について論じてみたい。

▽たとえ話からはじめてみる
 ――「あなた」は、このエリアに入るのはずいぶん久しぶりだな、と思う。
 数人いる細胞培養の担当者や検査の実施者は毎日入室している自社CPFであるが、管理側になるとなかなか立ち入る機会がなくなる。細胞培養室のドアが開きにくい、蝶番が歪んでいるという今のような報告がなければ、全身着替えてまで入ることはまれになった。管理データ自体は毎日見ているのに、入室はそれこそ年単位のご無沙汰かもしれない。
 考えながら手を洗い、更衣のためのインターロック付きドアノブを回す。…おや、固い。
 勿論開かないわけではないが、ノッチがひっかかる感触がある。これも帰りに写真に撮っておくべきか。

 あなたの入室の目的たる件のドアはエアタイトドアで、歪めば顕著に開きにくくなる。幸い、応急処置として蝶番のビス締めをしたところ開閉自体の問題は軽減したが、なにやらあちこちのドアに軋みがある気がして、あなたは少し眉を顰めた。別に大きな地震があったわけでもないし、施設のバリデーション時にも報告は特に上がってこなかった。だがもう施設は7年目の稼働に入ったところだし、確かに新しいとは言えない。ある程度は仕方のないものなのだろうか?
後室のドアの具合を確かめるように、何度か開閉してみる。と、
「あ、あれ!?  どうもすみません!」
 こちらのドアがまだ閉まっていないのに、背後のドアが大きく開いた。さすがに驚く。
「待って、後室はインターロックだよね? なんで今両側から開いたんだ? 壊れてる?」
「いえ、分かりません今まで気づかなかったです。故障に気づいたら勿論報告しますが、普段の作業人数だと、動線は滅多にかぶらないもので…」
「ああ、そうか…」
 どっと肩が落ちる。部材だけでなく、インターロック回路まで不具合か。
改めて見渡してみれば、どうもあちこちに軽微な不具合がありそうだ。パスボックスのドア部もアルコールによる劣化か、パッキンが割れ始めている。床もだ。塗床の端に見えるのはたぶんヒビだろう。幸い見える範囲のコーキング部分はまだ無事のようだが、それはまさしく「見える範囲」だけの話かもしれない。
今までは誰も、何も言わなかった。点検時にも報告はなかった。だからこそじわりと怖い。点検対象や管理項目でないこんな些細な部分に、どれだけの劣化が生じているものだろう? いや、久しぶりに入室して未発見の不具合を見つけたのだから、ラッキーといわねばいけないところか。
と、いうところで
「……この音はなんだろうか?」
 真上から聞こえてくる音の源を求め、あなたは天井を仰ぐ。上である。ならば空調か。しかし作業者の反応は鈍い。
「音? どの音ですか?」
「ほら、するよ。真上から少し高い、こすれるような…」
「そんな音してますか? この場所の真上なら、空調の換気ファンかもしれませんが…もしかして耳が慣れてしまって気づかないのかも」
「え、慣れる? じゃあもう、ずっと鳴ってるってこと?」
「換気ファンのVベルトは定期的に替えてもらいますが、交換時期の前ごろになると、いつも唸るような音がしてるんです。だからかな、今はむしろ、すごく静かな気がしますが――」

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