細胞加工施設運営における『経年劣化・老朽化』への対応【第3回】

2019/02/15 施設・設備・エンジニアリング

 臨床用にであれ研究用にであれ、ヒト細胞の調製、加工、製造を実際に行うには「細胞加工施設」と呼ばれるハードウエアが必要である。細胞加工施設は一般にCPC(Cell processing center)やCPF(Cell processing Facility)とも呼ばれており、再生医療分野での取り組みを行う上では、必須の施設だ。本稿では以下、CPFの略称を使用する。
 昨今、大型建造もあちこちで見られるCPFについて、本稿では長期使用時の経年劣化や老朽化の兆候、それら現象への対応、管理法など実務的な側面を6回に分けて論じていく。
 3回目となる今回は、設備交換において、リスクとコストを下げる具体的な方法をひとつ、ご紹介したい。

▽適宜設備交換をしてもトラブルは防げない
 まず前回は、CPFが止まってしまうような大掛かりな老朽化ではなく、軽微な異変から話を始めた。些末に思える部分だったかもしれないが、そもそもCPFという高価な施設は、できるだけ長持ちさせることが、多くのユーザーにとって望ましいことのはずだ。こまめなメンテナンスを加えることで長持ちさせられるのであれば、コストパフォーマンスという意味で大変に喜ばしい。なにしろCPFは修繕工事を行うハードル自体が高いから、施設の管理を行う人間にとっては、大きな工事はできるだけ行いたくないのが人情だろう。
が、やはりそう簡単にはいかない。
 規模にもよるが、空調関連ではフィルター関連はもちろんのこと、室内外機部品、各種ファン、CAVなども5年を目途に順次交換の検討が始まるだろう。空調関連は一斉交換となると金額も工事規模も大きくなるため、年次バリデーション時に順次行っていくのが一般的だ。こうして年次バリデーション時の点検・交換・メンテナンスを実施しても、10年の間なにごとも起こらなかった、という展開はまずないと思っていい。それでも起こってしまうから、トラブルはトラブルなのだ。
 突き詰めれば、施設ハードウェアの問題というのは「施設の稼働が止まるようなトラブルがいつ起きるか」だ。そしてそれを「未然に防ぐのにいくらかけるか」に尽きる。

▽結局、お金の問題
 前述の問題に対し、建造・メンテナンス施行側の企業が、当然安全牌を取りたがるのは第一回で記した通り。特に、CPFにおけるトラブルでは、修理が即時実施できるとは限らないことも恐怖を増す理由だ。部品を発注して納品まで1か月、あるいは数か月かかるというケースもあるため、施行側にすれば計画的に交換しないと、いざ不具合が生じたとき、ユーザーに「困る、まだか、どうして壊れた」とせっつかれても困るのだ。
 このような背景があるため、ユーザーが定期点検時に業者に対し「少しでもCPF内に不具合があればすべて交換、修繕の対応を取るから報告してくれ」と宣言するのが、「老朽化」によるトラブルに対応する、もっとも簡単な方法だ。彼らはおそらく、あらゆる不具合を報告してくれることだろう。そして言葉通りすべて修繕・交換を行えば、来年の指摘はさらに増えるはずだ(これはけして嫌味ではない。事業者はむしろ依頼者の希望に沿ってそうすべきだ)。
 依頼側に知見がなく、いくらかけてもトラブルを防ぐことに重点を置くなら、それでよい。けれどもしもそうでないなら、実は、こう言うことがユーザーにはできる。
「少しでもCPF内に経年劣化が不安な個所があれば、当該部品を発注しておきたいから教えてほしい」

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執筆者について

鮫島 葉月

経歴 一般社団法人免疫細胞療法実施研究会事務局、株式会社日本
バイオセラピー研究所 事業推進部部長
慶応義塾大学大学院医学研究科(修士)修了後、2008年株式会社セルシードに入社。再生医療に係る臨床用細胞加工物の開発および品質保証を担当し、当時の細胞培養加工施設の運用整備(GMP準拠)に携わる。2012年(株)日本バイオセラピー研究所に入社、再生医療関連法に同社を適応させ、特定細胞加工物の製造許可を取得。新規の製造施設設計と運用構築、文書策定等を行い、年間3000バッチ以上の特定細胞加工物を製造する細胞加工施設の施設管理責任者を担っている。
一般社団法人免疫細胞療法実施研究会においては、研究会事務局として、再生医療等を行おうとする医療機関向けに申請サポートデスクを運営。すでに200以上の計画策定を支援している。
また当該法人にはICTA特定認定再生医療等委員会を設置し、委員会事務局として再生医療等の審査対応を行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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