【第6話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
“純粋な心”の力
7月上旬(2024年)、あべのハルカス美術館の開館10周年を記念して開催された、歌川広重の浮世絵版画展「広重~摺の極~」に足を運び、“広重ブルー”を堪能してきました。広重は独特の青色(紺青)のグラデーション・コントラストと大胆な構図を軸に、“東海道五十三次”、“名所江戸百景”など主に名所絵を描きました。全国の名所を描いた浮世絵は、その色彩の鮮やかさと繊細な筆づかい、また、庶民が親しみを感じる人物を配したことにより、当時、旅行がままならない庶民の絶大な人気を博し、売り上げは50万部にも及んだと言われています。
この広重の成功は、日本の植物分類学の父と言われる牧野富太郎博士に通じるものを感じます。家業の酒造業の跡取りを辞してまで植物に傾倒し、植物を愛し、全国を踏査して植物を調べ、分類研究や命名に生涯を捧げ、『牧野日本植物図鑑』を完成させた牧野博士。一方、幼い頃より絵心に恵まれた広重は家業とも言える火消し(武家火消し)の立場を継承せず、絵に専念し大成。長男として生まれた者が家業を捨てるのは、当時は今以上に容易ではなかったと推測されることから、広重も牧野博士同様、人生を掛ける覚悟の上の決断だったと思われます。また、両者とも成功への過程において多額の借金を背負い、妻が質屋に出入りしてまで夫を支えるという良妻に恵まれたという点においても共通します。
要は二人とも生涯において、自身が生来、強く魅了された絵や植物に対し強い関心を持ち続け、その一方においては、お金に対してあまり執着がなかったということになりますが、このことは、文化芸術や科学研究の領域において名を成した、偉大な人物に共通することかも知れません。別の見方をすれば、この種の人物は生涯にわたり子供のような“純粋な心”を持ち続け、“何事にも誠実で正直な気持ち”で対応した結果、目標を達成するための、“人並み外れた力”を発揮することができたと言えるのではないでしょうか。
この、“純粋な心を持ち続け、何事にも誠実で正直な気持ちで対応する”ということは、多くのことに共通して大切であり、医薬品の開発や製造・品質管理といった領域においても例外ではなく、品質や安全性を安定して確保する上において、職員に求められる資質の基礎となる要件と言えるのではないでしょうか。つまり、医薬品が本来保有すべき“品質・有効性・安全性”(医薬品の3要件)を安定して確保するためには、これを開発し製造する企業の職員の皆さま全員が初心を忘れず、“純粋で誠実な心”を持ち続け、患者・生活者の立場に立って、日常の業務に取り組むことが重要と考えられます。
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