医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第58回】

E&Lの分析からわかること

 前回、E&L分析の進め方について概要をお示ししました。代表的な分析機器として、有機物の分析では、揮発性のものを対象としたガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)、不揮発性のものを対象とする場合は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、そして、無機分析では、ICP-MSなどがありますが、それぞれどのようなデータが得られるのでしょうか。
 まずICPは元素分析ですので、対象の元素は周期表にある数に限定され、得られるデータはどの元素がどの程度の量、検出されたということまで判明します。正確に定量する際は、スタンダードという各元素の標準試薬を分析することにより得られた濃度-シグナル関係をもとに計算します。一方、GCにしてもLCにしても、出力されるのは、いわゆるチャートというものす。基本的には、横軸が時間(保持時間)で、縦軸が検出器に反応した強度というもので、MS(Mass spectrometry)、質量分析計が付属しているものでは、質量解析もできますので、質量に相当する軸(m/z)が加えられた3次元のチャートになります。これらのデータをもとに、特定のピークがどのような物質かを推定するのですが、こちらもICPと同様に物差しとなるスタンダードがないと正確な物質名や量の把握は難しいのが現状です。
 否、化学物質の種類と量を多々解析しているデータを見たことがあるよとおっしゃる方がおられるかもしれません。確かにそのような解析法があります。それは、種々の化学物質のピーク等の特性を予めデータベース化しておき、ライブラリとして機器付帯のコンピュータに搭載し、ライブラリの中に検出されたピークと同様のものがヒットすれば、それを解析結果として示すという方法です。厳密性には欠けるのと正確な定量という観点では、やや難がありますが、E&Lデータの解析のように、特定の物質の有無や量を正確に分析するのではなく、何が含まれているかよく分からないが、おおよその特性を知りたいという際には有効な方法です。
 ただ、ライブラリに登録されていない化学物質であったり、断片化したり、代謝されて修飾された分子などはライブラリにはないことが多いため、ピークがたくさん検出されても、「unknown」という結論になってしまいますので、ライブラリの内容次第で検出力が左右されます。

 昨今、日本のみならず台湾や中国などでも健康被害が生じた紅麹問題は、関心がおありのことかと思います。
 これは、特定の期間に紅麴菌を培養して製造されたタブレット状の機能性表示食品により、腎臓の近位尿細管に傷害が生じて、深刻な腎機能障害となったものですが、その原因物質は、最近ようやくプベルル酸と特定されたと発表がありました。

 

 

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