医薬品開発における非臨床試験から一言【第58回】

血液採取から始まる血中濃度の解析

非臨床薬物動態(PK)試験は、血液採取による血中濃度の解析より始まります。このデータを基に、開発品目の特性を考えて、順序良く、効率的に取り組まないと、ゴールの見えない『果てしない取り組み』に陥ります。

薬物治療を薬物動態から考えると、投与量そのものよりも血中や組織中の薬物濃度が重要です。したがって、薬物の血中濃度や標的組織中濃度の経時的な推移の解明が大切になり、特に薬物の代謝過程で重要な肝臓を標的とする薬物は、経口投与後に消化管から吸収され、門脈系を経て肝初回通過時の肝臓移行が注目されます。

医薬品開発のグローバル化に伴い、臨床第Ⅰ相試験が欧米で実施されるケースは増加し、また、ヒトでの探索試験に関するガイダンス(Microdosing、Exploratory IND試験)が規制当局から提案されるなど、臨床試験の開始に必要なデータパッケージの考え方や、医薬品開発を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。ICHガイドライン(M3(R2))では、動物での曝露データを評価した後にP1を開始すべきとされています。

しかし、研究開発のどの時期に、どのような非臨床薬物動態試験を実施すべきかを示した基準またはガイドラインは見当たりません。ケースバイケースが原則ですが、日米欧の地域あるいは医薬品を開発する会社の間でも、P1試験前に実施する非臨床試験の情報量に差が生じており、特に日本は欧米と比べて情報量が多いと考えられています。

非臨床PK試験での血中濃度測定は、厳密には2種類のカテゴリーがあり、①放射性標識体を用いた単回投与によるPK試験、②非標識体を用いた単回投与によるPK試験になります。さらに、げっ歯類(マウス、ラット)と非げっ歯類(イヌ、サル等)に分かれ、そして、①では、静脈内投与と臨床適用経路(経口投与など)に分類されて実施されます。②では、げっ歯類と非げっ歯類で用量比例性が検討されます。

非標識体の血中濃度は、2013年7月に厚労省から公表された「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」に沿って分析されています。この分析法には、臨床/非臨床において、体内動態、バイオアベイラビリティ、生物学的同等性、薬物間相互作用等の評価に利用されています。そして、実試料分析に関して推奨される一般的な指針です。

このガイドラインには、非臨床薬物動態のみならずトキシコキネティクス試験及び臨床試験での薬物濃度分析も含まれています。新たに、ISR(Incurred samples reanalysis)、段階的アプローチ等の考え方も導入されました。また、リガンド結合法(免疫学的分析法等)に関する分析法については、2014年4月にガイドラインが公表されました。

血中濃度の分析には、分析法バリデーションが必要になります。そこで、薬物又はその代謝物の生体試料中薬物濃度を定量する際の分析法は、施設ごとに確立するためのフルバリデーションを実施します。

フルバリデーションでは、選択性、定量下限、検量線、真度、精度、マトリックス効果、キャリーオーバー、希釈の妥当性及び安定性等を評価します。通常、フルバリデーションは、分析対象となる動物種又はマトリックス(主に血漿、血清、全血又は尿)ごとに実施します。

既にフルバリデーションを実施した未変化体の分析法に、代謝物等を新たな分析対象として追加する場合にもフルバリデーションの実施を考慮します。つまり、非標識体を用いた単回投与PK試験における「用量比例性」を検討して、開発のステップが上がった後に、in vitro試験等で、推定代謝物の分析が必要となると、その代謝物の標品を準備し、再度、未変化体を含めたフルバリデーションが必要となります。

分析法バリデーションに用いるマトリックス(血漿など分析対象の試料)は、抗凝固剤や添加剤を含め、分析対象の実試料にできるだけ近いものを使用します。コントロールのマトリックスについては、市販品を使用する場合もあります。希少なマトリックス(組織、脳脊髄液又は胆汁等)を対象とすると、十分な量のマトリックスが準備できない状況もあり、代替マトリックスが設定される場合もあります。

実際の分析では、「安定性」が課題になることもあります。分析対象物質の安定性評価は、試料の採取から分析までの各過程が分析対象物質の濃度に影響を及ぼさないことを確認するために実施します。そこで実際の保存条件又は分析条件にできる限り近い条件で行います。

 

 

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