医薬品開発における非臨床試験から一言【第1回】

2020/01/17 非臨床(GLP)

医薬品の開発は、三極(米国、EU、日本)と呼ばれる地域を中心に製薬産業として行われています。そして三極の規制当局と産業界代表の合計6団体が協力して、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)の枠組みの中で、医薬品の共通の評価基盤を形成し、安全で有効な新薬がたゆまなく創り出されてきました。医薬品は、もの(化合物)が発見され、製剤として創成された後に、初期の研究段階での毒性研究あるいは薬物動態研究と臨床研究からの安全性が評価され、非臨床での研究および臨床研究での有効性評価が合わさって、新薬の適正な価値が情報(データ)により示されます。さらには、価値に見合った価格(日本では保険償還に相当)により市場に供給され、その利益が明日の創薬の促進に繋がっていると考えています。

本質的な意味での『医薬品開発のゴール』を考えてみますと、まず、新しい市場創造があり、革新的で有用性の高い優れた医薬品をいち早く、かつ継続的に開発することが重要となります。それぞれが重要な課題であり、例えば、「革新的」な分子標的薬が世の中をにぎわしており、高分子で高価な新薬が次々と創出されています。しかし、必ずしも高分子でなくても同様の作用を示すものはないかと研究するチームもあり、そのような新薬も開発されています。次に、グローバル展開をゴールに挙げたいと思います。医薬品を疾病に苦しむ世界中の患者さんのもとに提供し続けることは大切であり、新しい医薬品は、不老不死のくすりのように個人が独占するものではなく、エイズの薬、結核の薬のように、文明社会のみならず世界中に余すことなく行き渡らせるのがゴールとなります。

少し視点を変えてみますと、高薬価獲得も創薬の大きなゴールと言えます。医薬品は価値に見合って適正に評価されることを目指し、利益も創薬のモチベーションとして大切なゴールとなります。莫大な研究投資に見合った利益が得られなければ、研究開発の歯車が回らないのも事実です。新薬のシードとなるものを積極的に導入し、試験のアウトソーシングによるコストダウンが図られ、ギリギリのタイミングで新薬の競争は行われています。しかし、科学的にいかに優れた医薬品であっても、座して高薬価は獲得できません。情報提供も大切な手段と言えます。医薬品が市場で適正に評価されるためには「医薬品の価値」を明らかにする、正確でタフな情報提供が継続的に必要となってきます。

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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