医薬品製造事業関連の知財戦略【第10回】
23.医薬品の世界市場と製薬会社の国際活動
2010年における世界の医薬品の総市場は、8500億ドル超、日本円にして60~70兆円に拡大してきています(図15を参照)。このうち、日本市場は950億ドル余、世界総市場に占める割合は11%程度と、10年間に市場は約2倍に拡大しましたが、総市場に占める割合ではやや減少しており、実質的には低下しているともいえます。この傾向は北米についても同様ですが、元々北米市場の絶対額は大きく、2010年でも3300億ドルを超えています。
国内製薬企業の研究開発費は年々増加し、2010年には1200億円を超えただけでなく、売上高に占める割合は19%にのぼり、10年間で1.5倍ほどになっています(図16を参照)。
一方、新有効成分含有医薬品、いわゆる新薬の年間承認数は、10年間で大きな変化はありません(図17を参照)。この間の全医療用医薬品の承認数は増加していますが、これは新効能医薬品などの既承認薬の変更申請あるいはGE薬などのその他の医薬品に区分される申請に対する承認の増加によるものです。
また、特許出願数は、2001年度から2010年度にかけて大きな変動はなく、医学分野についても変動は軽微なものとなっています。
これらの統計データが示しているように、製薬業界においては研究開発投資を増大させてきていますが、新薬開発は困難化してきており、技術開発の面から見ても必ずしも投資額の増加に見合った状況にはありません。換言しますと、医薬品を製品として上市するために要するコストは年々増加してきており、製薬企業にとって事業を継続するためには開発した医薬品をできるだけ大きい市場を対象とした事業を指向するべきであるということになります。
冒頭でも述べましたが、世界の医薬品市場の中で日本市場が占める割合は1割程度にとどまることから、経費においても、時間においても多大な投資を行って開発に成功した医薬品は、世界市場を対象として事業化されることが一般的です。このため、知財戦略も世界各国、特に先進国を中心に事業化することを念頭に構築することになります。
また、医薬品開発に長い期間と膨大な費用を要することは世界的に共通した状況にあり、このため、各国の製薬企業とも開発の空隙を補うために他社技術や他社製品を導入することが活発に行われていますが、この場合も特許の有無あるいは特許の良否(独占権としてカバーできる範囲あるいは「強い特許」としての内容)がライセンスの成否を決定することもあります。さらに、製品の導入にあたっては、見返りの製品(quid pro quo)の導出を要求されることも少なくありませんが、その場合も製品に係る特許の存否が代償製品の価値に大きな影響を与えます。
世界市場を対象とする場合にも基本的な知財戦略の考え方が変わるわけではありませんが、医薬品の知財戦略を構築する上では、特許制度とともに薬事制度を理解し、両制度に適合した戦略を推進する必要があります。そのため、特に、特許の取得、期間延長を含む権利の維持、権利の活用などに関する特許制度、データ保護期間、想定される競合品の申請、承認などに関する薬事制度を考慮して戦略のベースとなる特許を取得することになります。
これらの制度については、各国の国内制度はもとより、国際間の扱いが条約や国際協定などによって調和が図られています。さらに、近年、技術や製品のみならず、特許を含む知的財産は国際貿易の対象として扱われており、貿易に関する国際協定においても知的財産の取り扱いが規定されており、このような状況も考慮しておく必要があります。
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