医薬品製造事業関連の知財戦略【第1回】

2012/06/25 その他

稲場 均

はじめに
 
 本シリーズでは、「医薬品製造事業関連の知財戦略」と題し、製薬企業における知的財産(「知財」と略すことがあります)を活用した企業活動における戦略(これを「知的財産戦略」と呼び、「知財戦略」と略すこともあります)の基礎知識について、さらに、知財戦略における製造担当者との関わりについてもお話しします。
 
 
1.研究開発とその成果
 
 製造業と呼ばれる業種にあたる企業は、少なからず、研究、開発部門あるいは技術部門を擁し、自前の新製品や新企画の事業を展開するための努力を行っています。こうした製品開発、技術開発に要するコストは、企業の大きな負担となっています。政府統計によれば、製造業における研究開発費の対売上高比率は約5%程度であり、収益の多くが研究開発あるいは技術開発(以下、両者を併せて「研究開発」とします)に費やされています。製薬企業に限ってみますと、その割合は、以前は8%程度であったものが、最近では10%を超え、20%に達する企業もあるほどです。これは、言うまでもなく、製造業にとっては研究開発とその成果の活用が新製品の源泉となっているからです。見方を変えますと、高額の研究開発投資を行っているわけですから、研究開発の成果である新製品を上市したら、何としてもそれに要したコストを含めた投資の回収をする必要があります。
 
 一方、企業競争は、単なる価格競争に止まらず、いかに魅力のある優れた製品を提供できるかに懸っており、その傾向はますます高まってきています。加えて、生産技術の自動化やIT技術の普及、先進国における人件費高騰などから、製造業の多くがその製造拠点を新興国や開発途上国に移してきており、製品を製造、販売するだけではコストを回収することが困難になってきています。その打開策としても研究開発に注力する必要性が高まっているわけです。研究開発に投資を行うことによって製品のコスト回収を含めた事業の展開と持続的な発展を指向するわけですから、研究開発の成果が事業に最大限有効に働いてこそ投資した意味があることになります。このため、研究開発への投資によって生み出された新しい技術(物を作製する手法や過程だけでなく、その成果としての物を含めて「技術」と呼びます)のエッセンスともいえる「知」を投資の成果として確保し、事業に活用することが企業にとっての最重要課題の一つに位置づけられるようになってきました。
 
 また、国家単位においても経済活性化のためにはイノベーションによる産業の振興や改革が必要であるとの認識から、イノベーションの源泉としての「知」を重視する政策がとられてきています(図1を参照)。この「知」は、研究開発投資の対象である知的生産活動の成果であり、投資によって生み出された財産とみることができます。そこで、このような知的生産活動の成果としての「知」を知的財産と呼びます。技術的な成果以外にも、デザインや商品名など、技術に付随する知的生産活動の成果、あるいは、技術とは関係のない文化的な創作である著作も知的財産に含まれます。また、それらの知的生産の成果は所有権の対象となることが法律的に認められており、知的成果を知的財産、それに伴う権利を知的財産権と呼び、知的財産を生み出した人に属する権利として保護されます。

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執筆者について

稲場 均

経歴 千葉大学 医学部付属病院 臨床研究基盤整備推進委員会シーズ評価専門部会委員
持田製薬(株)にて中央研究所副部長、知的財産部長を歴任。千葉大学での特任教授を務め、2009年4月より現職。この間、2010年より日本製薬工業協会知的財産部長。2012年から2015年まで東京医科歯科大学客員教授を兼任。また日本知的財産協会の特許委員長、バイオテクノロジー委員長、常務理事、副理事長を務める。その他、特許庁:微生物寄託検討委員会委員、環境省:生物多様性条約名古屋議定書検討委員会委員、知的財産研究所:用途発明に関する調査研究委員会委員を歴任した。
現在の研究内容は『製薬企業の知財活用、医療分野の実用化促進に資する知財戦略の推進』である。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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