再生医療系若手技術者のための製造文書作成術【第4回】
「文書の種類とコンテクスト」
本稿は、これから再生医療に関わる若手技術者の方に向けた、製造文書を書くための具体的・実践的なTipsになっています。初心者の方は勿論ですが、今現在作成に携わっておられる若手の方なら、最後のポイントをチェックしてみるだけでも役に立つように心がけました。
第4回となる今回は、ちょっと立ち止まって、コンテクストについてお伝えします。
というのも、培養作業や品質試験などの「具体的作業にかかる下位SOP」と、それより上位にある管理文書や手順書では、このコンテクストの観点からちょっと書きっぷりが違うからなのです。コンテクストの考え方が見えると、趣旨の異なる複数の文書の書き方が整理されてくるかもしれません。
【コンテクストとはなにか?】
まず「コンテクスト」とはなんであるか。これは文脈・脈絡と訳されることが多く、書き言葉ではその下地に流れている背景のようなものと考えればよいと思います。
分かり易いたとえですと「頭が痛い」という文言は同じでも、患者が医師に訴えている症状なのか、業務に問題が山積している部長の独り言なのかで、意味はまったく異なってきます。前後の文脈や背景がなければ、このセリフを正確に解釈することはできません。特に日本語は、このように「文言のみでは意味が正確に取れない可能性がある」使い方自体が多いため、注意しなければ誤解が生じることもしばしばです。もちろん、そのような言い回しがあることを知らないと話にもならないわけで(上の例の部長さんに、部下が「お風邪ですか」と返したら当面笑い話にされるかと思います)、日本語のコミュニケーションというのは、けっこう難しいものだとしみじみ思います。
さらに、主語の省略も同様にコンテクストの中で行われています。英語と異なり、普段しゃべっているときの日本語には、必ずしも主語が含まれない場合があります。自分と誰かの2人だけでしゃべっているとき「私」「あなた」はほぼ省略されていませんか?
このように「暗黙の了解」の背景ベースが広い言語は、ハイコンテクストな言語といわれ、欧米系のローコンテクスト言語とは構造が異なるとされています。実際、自動翻訳で英語を日本語に訳すことはできても、日本語を英訳するとびっくりするような文章になることがあります。さほど意識せずとも、日本語の文章はコンテクストに頼って構成されているのです。
なお上記は一般的な日本語におけるコンテクストで説明しましたが、いわゆる「業界」ではさらに奇々怪々なコンテクストも存在します。常識、とも呼ばれる謎の下地です。露骨に言葉にしにくい金融、証券、不動産などは筆頭。ただの専門用語なら調べればわかりますが、調べてもなかなか理解できない業界用語には、奥深いコンテクストが含まれており、一般の方には正確な文脈で理解などされないことを、彼らは前提に喋っていますので、念のためご注意を(閑話休題)。
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