【医薬品工場建設のノウハウ】リーンクオリフィケーションアプローチの考え方を取り入れたプロジェクト遂行について【第2回】

2020/10/23 製造(GMDP)

伊藤 崇

プロジェクトを成功に導くための手順について、ユーザー(製薬会社)の視点で紹介する。

前回から引き続きリーンクオリフィケーションのフローに沿って、具体的なバリデーション/クオリフィケーション活動と図書について説明をしていきます。

(1)バリデーションマスタープラン(Validation Master Plan VMP)
製造プロセスのバリデーションには、プロセスに関連する多くのバリデーションが付随されるため、体系的に整理してバリデーションマスタープラン(VMP)を作成することが効率的なバリデーション遂行のために重要です。バリデーションの規模が大きければ大きいほど多くのプロジェクト関係者が関わり、バリデーションをスケジュール通りに順序良く、的確に進めていくには多大な労力を要します。そのため、バリデーション活動をスムーズに進行させる上でVMPを作成し、バリデーションの進捗を管理する必要があります。VMPに関してPICS GMP Annex15の中で下記のような要件が記載されています。

図  PICS Annex15 VMPについて(参照:PICS解説シリーズ Annex15 Qualification and Validation)
 


1.5 The VMP or equivalent document should define the qualification/validation system and include or reference information on at least the following:

VMP或いは同等の文書はクオリフィケーション/バリデーションシステムを規定し少なくとも以下に示す参考情報を記載または引用していること。

ⅰ.Qualification and Validation policy;
クオリフィケーション及びバリデーションポリシー

ⅱ.The organizational structure including roles and responsibilities for   qualification and validation activities;
クオリフィケーション及びバリデーション中に作成された文書は、医薬品質システムの規定に従い、適切な職員により承認され、正式なものとされること。

ⅲ. Summary of the facilities, equipment, systems, processes on site and the qualification and validation status;
設備、機器、システム、プロセスの概要及びクオリフィケーションとバリデーションの状態

ⅳ. Change control and deviation management for qualification and validation;
クオリフィケーション及びバリデーションに関する変更管理及び逸脱処置

ⅴ. Guidance on developing acceptance criteria;
許容基準の設定に関するガイダンス

ⅵ. References to existing documents;
既存文書の参照

ⅶ. The qualification and validation strategy, including requalification, where applicable.
クオリフィケーション及びバリデーション戦略、該当する場合再クオリフィケーションを含む

PICS GMP Guide Annex 15, 2015
 

 


当社が作成するVMPは、この要件を満たすように下記図に示すような目次で構成しています。このVMPの「7.バリデーション実施方針」の章で、LQAで実施するバリデーション活動と作成する図書の概要を説明しています。また、バリデーションが適切かつ円滑に進行するよう、逸脱処置、変更管理、教育訓練と署名登録についてもバリデーション活動用のルールをVMPの中で明記するようにしています。

LQAのバリデーションマスタープランの目次(例)

 

1.目的
2.適用範囲
3.プロジェクト概要
4.用語・略語の定義
5.役割及び責任
6.役務区分
7.バリデーション実施方針
 7.1. ユーザー要求概要書(URB)
 7.2. クオリフィケーションマスタープラン(QMP)
 7.3. GMPコンプライアンスアセスメントプラン/レポート(MPCAP/GMPCAR)
 7.4. システムクラシフィケーションプラン/レポート(SCP/SCR)
 7.5. クリティカルアスペクトレビュープラン/レポート(CARP/CARR)
 7.6. システムクオリフィケーションプラン(SQP)
 7.7. ユーザー要求仕様書(URS)
 7.8. 機能仕様(FS)、設計仕様(DS)あるいは同等の文書
 7.9. システムリスクアセスメントプラン/レポート(SRAP/SRAR)
 7.10. デザインクオリフィケーションプラン/レポート(DQP/DQR)
 7.11. コミッショニングプラン/レポート(FAT、SAT)
 7.12.インスタレーションアンドオペレーショナルクオリフィケーションプラン/レポート(IOQ)
 7.13. システムクオリフィケーションレポート(SQR)
 7.14. クオリフィケーションマスターレポート(QMR)
 7.15. パフォーマンスクオリフィケーションプラン/レポート(PQP/PQR)
 7.16. 分析法バリデーションプラン/レポート(MVP/MVR)
 7.17. 洗浄バリデーションプラン/レポート(CVP/CVR)
 7.18. プロセスバリデーションプラン/レポート(PVP/PVR)
 7.19. バリデーションマスターレポート(VMR)
8.コンピュータ化システムバリデーション実施方針
9.許容基準設定の考え方
10.バリデーション実施状態維持計画
11.バリデーションマスタースケジュール
12.本プロジェクト用の逸脱管理
13.本プロジェクト用の変更管理
14.バリデーション文書リスト
15.担当者への教育訓練及び署名登録
16.バリデーション文書付番手順
17.適用法規・規格及び参考資料
18.社内関連文書
19.添付別紙

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執筆者について

伊藤 崇

経歴 株式会社シーエムプラス エンジニアリング事業部バリデーション部 部長
東京都立大学工学部機械工学科卒業、明治製菓株式会社に入社し設備エンジニアとして、菓子製造、無菌製剤・経口剤製造設備、発酵原薬製造設備また海外では、インドネシア、スペイン、インドの製薬工場のエンジニアリングを経験し現在に至る。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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