【第8話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
“規制と科学”のバランス
11月12日(2024年)、相撲道という厳しくも長い旅路を歩み、力士としてまた解説者として活躍されてきた元横綱の北の富士さんが亡くなられました。速攻相撲で優勝11回を勝ち取り、端正な容姿に着物姿でユーモアを交えた辛口の批評にも絶大な人気があり、訃報は多くのファンの悲しみを誘いました。後進への指導は厳しさ一辺倒ではなく、時にはよく遊び、力士の状況に合わせた思いやりのある指導により、部屋の力士からの信望も厚かったと伝えられています。総じて言えば、厳しさと優しさをバランスよく兼ね備え、ユーモアを忘れない人情味あふれるお人柄であったと言えるでしょう。それゆえ、力士も向上心やモチベーションを切らすことなく、思う存分稽古に励むことができ、千代の富士や北勝海といった横綱も誕生したのではないでしょうか。
ところで、NHKは上記の訃報を報じた前日の11月20日、改めて、医薬品不足の問題を大きくとり上げ、状況が一向に改善していない現況を詳しく伝えました。この数年、多くの専門家・有識者により多岐にわたりその解決策が議論され、一部対策も講じられてきているにも関わらず、何ら改善の兆しが見られないのはなぜか?それは簡単に言えば、根本原因に対して十分にメスが入れられていないからではないでしょうか。つまり、主要原因を製薬工場の製造管理や品質管理の不備に求め、それを惹起している現行の規制や制度の問題に対し、一歩踏み込んだ考察や検証が行われないまま時間が経過していることが、実質的な改善対策の遅れを招いていると推量されます。
安定供給に支障を来す業務停止や回収の原因として重視される、“変更管理”の問題を例にとれば、これに関する薬事手続きに一部柔軟な対応の動きが見られますが、一方で、直近の自主点検(提出期限;2024.10.31)において、承認内容と実際の製造や品質管理の手順に多数の相違(後発医薬品の43%、3,796品目)が確認され、この問題の根が深いことが改めて浮き彫りになりました。今回の厚労省主導の後発医薬品企業による自主点検の結果では、承認書との齟齬が多数認められたものの品質・安全性に影響のある事例はなく、回収等に該当するものはなかったとされています。報道においては、承認書との食い違いの詳細が明らかにされていないため、予断は許されませんが、本来、承認事項逸脱は回収や業務停止の対象であることを踏まえると、今回、約3,800もの承認書との齟齬事例が確認されながら、回収等は皆無とされた背景には安定供給への配慮があったものと推察されます。
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