医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第57回】

2024/09/20 医療機器

E&L分析のストラテジーについて述べたいと思います。

E&Lの分析

 E&L分析の考え方は、ISO 10993-18:2020に詳しく述べられています。
 今回はこれに基づいたE&L分析のストラテジーについてお話したいと思います。

 まず、医療機器を選定する場合、ワーストケースのものを用います。これは生物学的安全性試験の被験物質の選定と同じです。材質は同じでも原材料の配合比の違いで物性が異なっているとか、カラーバリエーションがあるなど、同じ製品でもいくつかのバリエーションがある場合には、生物学的安全性としてよりシビアであると考えられる製品を選定します。
 つぎにそれぞれの材質の化学的情報をできるだけ明らかにします。原材料の種類、配合量、純度などです。
 そして、生体に接触する部位を特定して、製品と同様の工程で製造/滅菌したものを被験物質として用意します。
 次は、抽出溶媒の選定です。極性溶媒、非極性溶媒、半極性溶媒というように、極性の有無で溶媒はおおまかに分類されています。極性というのは、分子に正負の電荷の分布が不均等であることで、そのため、分子は安定化しようと他の分子に結合しようとする性質があります。親水性の物質は極性を有するものが多いため、極性溶媒というと水が代表です。
 ISO 10993-18:2020のTable D.1に挙げられている溶媒を下表にお示ししました。

 Extractablesは前述したように徹底抽出して得られる物質に相当しますので、高分子プラスチックスなどにとっては、非極性溶媒を選択することが多いかと思います。Leachablesとなると、ほぼ水がほとんどを占めるのが体液成分ですので、極性溶媒としては水を選択し、中間的な溶媒としてはアルコール類を用いるということになろうかと思います。

 前回も述べましたが、有機高分子材料では抽出物として多種多様な化合物が得られます。そして、その溶出量も多様です。ごくわずかに溶出するものまで含めると、100を超える化合物が溶出する場合もあり、それらをすべて同定し、安全性評価をするのかとなりますのと、不可能に近い作業になってしまいます。そこで、溶出量がごく少量であれば、生物学的安全性に及ぼす影響は無視できないかと思うのは自然の流れですね。第39回と第40回に、今回と同じようなお話をさせていただいておりますので、参考にしていただければと思います。当時は、ISO 10993-18は2018年版でしたが、今回は2020年版にアップデートしております。大きな流れは同様ですが、あらためてお示ししますと、TTC (Toxicological Threshold Concern; 毒性学的懸念の閾値)の概念を応用します。TTCは簡単に言うと、これ以下であれば発がん性を含めてほとんどの毒性が発現しないとされる量(=閾値)ということです。

個々の不純物に対する許容摂取量

 TTCの単位は、1日当たりのばく露量(µg)です。医療機器の使用期間によりTTCは変われます。例えば、1ヵ月以下の使用期間の医療機器の場合は、ある化合物のTTCは120 µg/dayです。人工関節などの長期使用の場合のTTCは1.5 µg/dayです。溶出したある化合物が、これらのTTCを下回れば、毒性学的には無視できるので、これをしきい値として、数多い溶出化合物のふるい分けに利用できます。

 

 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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