ゼロベースからの化粧品の品質管理【第47回】

2024/08/23 化粧品

今回は化粧品工場における微生物対策の施設および設備面での留意点について。

 

―化粧品工場における微生物汚染対策の具体例―

 

 化粧品GMPに関して、実際の運用面から留意事項についてお話させて頂いています。
 最近、小林製薬で発生した青カビ混入問題が注目されています。この問題を受けて、化粧品工場におけるカビ対策および微生物対策の重要性が再認識されています。そこで、今回は化粧品工場における微生物対策の施設および設備面での留意点についてご説明いたします。
 小林製薬の事例では、サプリメント製造時の青カビによって生成された物質が健康被害を引き起こした事例で、紅麹菌の増殖過程で他の微生物がコンタミネーションを起したものです。微生物を扱っている工程での事故ですが、化粧品工場でも他人事では済まされない状況です。この事故を教訓に、多くの化粧品工場でも使用する設備や用具に対し、アルコールを噴霧したり、アルコールで拭き取ったりするなど、殺菌作業の徹底をトップ指示として出されたようです。また、作業時の殺菌作業のチェックも厳格に行われています。しかしながら、殺菌や消毒作業はあくまで対処療法であり、根本的な汚染原因の対策にはなりません。
 先ずは、微生物汚染対策の基本的なアプローチとして「微生物を侵入させない」、「微生物を発生させない」、「微生物を拡散させない」、「微生物を殺す」という4つの手順に基づく対策が必要です。しかしながら、化粧品工場が完全な無菌環境を維持することは現実的に困難です。したがって、微生物をいかに除去し、殺菌し、さらに除菌するかが現実的な対策となります。
 もちろん、化粧品の種類によっては微生物が増殖しない静菌状態を維持できる商品もあります。このような場合、微生物の生菌数や種類に過度に神経質になる必要はありません。ただし、現実的な対策を実施し、微生物管理を徹底することで、高品質な化粧品の製造が可能となります。これから、その具体的な展開について詳しく説明いたします。

1.微生物を侵入させないことの基本
 施設の設計や設備の選定は、微生物対策において極めて重要です。外部からの微生物侵入を防ぐためには、施設の出入り口にエアシャワーや空気清浄機を設置し、適切な換気システムを整えることが必要です。また、作業者の服装や手指の衛生管理も徹底し、作業前には手洗いや消毒を義務付けることが基本となります。
 エアシャワーは、多くの製造施設で導入されていますが、その効果を最大限に引き出すためには、エアシャワー通過後のエリアが外部と適切に区切られていることが重要です。例えば、ロールカーテンやフィルターのない一般的な換気扇が設置されている製造所では、エアシャワーの効果が十分に発揮されない場合があります。エアシャワーは作業者への意識付けやゾーニングの明確化には有効ですが、実質的な対策としては、手指消毒の徹底や原料容器の取り扱い、風向きを考慮したコンタミ防止策が優先されるべきです。エアシャワー設置という形から入ることも重要ですが、中身バルクを微生物汚染から守るという視点からリスクの高い要素から対策を講じることが重要です。
 また、微生物の侵入を防ぐためには、汚染源リスクが高い箇所に対する対策が不可欠です。以下の事項は特に注意が必要であると考えます。

① 外気取り出し口の管理:工場周辺に畑や土壌がある場合や屋外に不要物が置かれている場合には、外気取り出し口の位置やフィルターの状態を把握し、適切に管理することが求められます。更に、外気からの微生物の侵入を防ぐために、フィルターの定期的な清掃や交換を行うことが重要です。
② 出入口の扉や窓の気密性:扉や窓の気密性が確保されていることが基本です。特に、扉の開閉時に外気がそのまま工場内に晒されることがないように配慮すると共に、外気とのエアーバランスが適切に保たれているか確認する必要があります。工場内が陰圧になる可能性がある排気が強く行われている製造室等では、外気とのバランスに特に注意が必要です。
③ 原料・材料の外装管理:段ボールなど、一般環境で取り扱われた外装資材は清浄区に持ち込まないようにすることが重要です。外装資材は、ビニール袋でカバーするなどして、直接的な暴露を避ける対策を講じる必要があります。また、ドラム管類については、天面や底面のふき取りを行い、外の環境からの汚染リスクを最小限に抑えることが求められます。
 

 これらの事項は当たり前のこととしてあまり議論されませんが、多くの化粧品製造所で守られていないように感じています。

2.微生物を発生させない
 微生物の発生を防ぐための基本的な対策は、施設内の水分活性を下げることです。微生物は湿度が高い環境で繁殖しやすいため、乾燥状態を保つことが重要です。しかし、静電気による異物対策や危険物対策のためには、施設内の湿度をある程度高める必要がある場合もあります。特に、シュリンクフィルムや樹脂チューブや樹脂容器での異物付着対策や粉体の発火や粉体爆発のリスクを管理するためには、湿度の調整が求められます。但し、この場合でも水分の管理を怠ると、カビの発生や微生物汚染のリスクが高まりますので注意が必要です。そこで、以下の具体的なポイントに注意して、乾燥状態を維持することが必要です。

① 天井・床の管理:天井裏や空調機の吹き出し口が結露により、カビが発生する可能性があります。また、床の凹みや隅に水が残っていると、微生物が繁殖する環境が整ってしまいます。さらに、排水口が詰まっていると水はけが悪くなり、湿度が高くなりがちです。定期的に天井や床のチェックを行い、結露や水たまりがないか確認することが必要です。特に排水口の清掃は怠らず、常にスムーズな排水を確保しましょう。
② 圧縮空気の管理:圧縮空気を使用する場合、そのエアー配管内や吹き出し口は乾燥状態が維持されている必要があります。圧縮空気は開放部では断熱膨張により結露が発生することがあり、これがカビの発生原因となることがあります。エアー配管の結露防止には、圧縮空気の露点管理が重要です。何度の露点が保証されているのか確認する必要があります。また、フィルターの管理も重要です。フィルターが適切に交換・清掃されていないと、逆に微生物や汚染物質の蓄積が進み、圧縮空気を介して微生物が施設内に広がる可能性があります。
③ 洗浄場所や水道の管理:洗浄場所や水道の蛇口、取水口周りの管理も重要です。使用後の水切りが行われていない場合、そこに水分が残り、カビや微生物の発生原因となります。特に、マットが敷かれている現場を良く目にしますが、水分が溜まっていると湿度が高くなり微生物の繁殖を促進する可能性があります。洗浄場所の使用後は、マットを含めて徹底的な水切りと乾燥を行い、常に乾燥状態を維持することが大切です。
④ 粉体を扱う場所の管理:粉体を扱う場所では、空調機のフィルターや設備、部屋の隅などに粉体が付着しやすくなります。粉体が放置されると、湿度が高い状態と栄養成分と相まって微生物の繁殖を助長することがあります。したがって、粉体を扱う場所では、フィルター類や設備の定期的な掃除が必要です。日々の作業において粉体が付着した状態で放置せず、清掃と管理を徹底することで、微生物の発生リスクを低減できます。
⑤ 冷却器および冷蔵庫の管理:冷却器周辺や冷蔵庫内の管理も重要です。冷却器の周りで水の結露が発生すると、そこにカビが生える可能性があります。冷蔵庫内では、原料や物品を不用意に重ねて置かないように徹底し、コンタミネーションの防止策を講じることが求められます。また、冷蔵庫内の定期的な清掃も必要です。冷却器や冷蔵庫の周辺も含めて、常に乾燥した環境を保つことが微生物対策には不可欠です。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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