医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第56回】

Extractables and Leachables

 前回までのコラムで、ようやくひととおり生物学的安全性評価項目の話題はひととおり終えることができました。長らくご覧いただき、誠にありがとうございました。
 これからは、医療機器の生物学的安全性評価に関わる諸問題について、徒然なるままに書かせていただこうと思っております。

 まずは表題にある、Extractables and Leachablesです。略してE&L。研究開発のR&Dとか、チョコレートのM&Mとか、Q&Aとか、アルファベットの一文字と&の組み合わせはなんとなく語呂がよいので覚えやすくありませんか。
 まあ例によってどうでもよい話ですので先に進みますが、Extractableというのは「抽出可能なもの」、Leachableというのは「到達可能なもの」というのが日本語訳でよさそうです。
 「抽出可能」は言葉通りですが、徹底して抽出しきったものというようにとっていただくとよろしいかと思います。一方、「到達可能」は、そもそもどこに到達するのかということになりますが、医療機器の場合ですと、「生体の適用部位に」ということになろうかと思います。最近では、医薬品の包装材についてもE&Lのことが話題になっていますが、包装材の場合は、包装する対象である「医薬品」が到達する対象ですね。
 医療機器では、例えば、フォーリーカテーテル(導尿カテーテル)の場合の生体に適用する部位への到達について考えてみますと、カテーテルのシャフトは尿道に留置され、シャフト本体は尿道粘膜に接触します。そうするとLeachableはシャフトすべてということになりそうですが、シャフトが溶解して粘膜にばく露されるのであれば、まさにその通りであるものの、実際はそんなことはなく、尿などを介して溶出したものが粘膜に到達することになります。輸液バッグの場合は、バッグに充填された薬液に溶出した成分が、静脈内に到達します。このように、生体環境に存在したり、生体に投与されたりする液体(気体もあります)中に溶出する可能性のあるものが、Leachablesと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
 生物学的安全性を考える場合、医療機器が難しいのは、溶けたものがそのままばく露されるということではなく、溶出したものが生体にばく露し、その有害性評価になることを本コラムの最初の方で述べたかと思います。それがまさにLeachablesということで、概念としてはご理解いただけたかと思います。

 Leachablesを把握して、それが毒性学的に意味のある種類や量でないことを確認すれば、生物学的安全性評価はできるのではないかと思った方も多いかと思います。たしかにそのとおりで、生体に到達するものの種類や量を把握して、その毒性情報と照合すると、リスクが顕在化するのか否かは評価できそうです。
 ただ、生体環境は複雑なので、量ひとつをとっても、環境温度や水分量、水以外の成分が媒体に含まれるかどうかなどで、大きく変動します。そうなると、いろいろな条件のうち、最も過酷な条件での溶出物を評価するというのがよさそうです。一方で、最も過酷というのもケースバイケースになりかねないので、溶出されそうなものをすべて抽出し、それを評価しておければ、生体環境が多少変動しても結論はブレないですみそうです。それはすなわちExtractablesですね。
 このような事情があったのかどうかは知りませんが、Extractablesを把握することも必要というようになっているのだろうと思います。
 E&Lの概念図は以下のようなものです。

 ある医療機器の中に抽出可能なExtractablesがあり、その中の一部がLeachablesになるというようなイメージです。E&Lのいずれも完全な部分集合となっていないのは、分解物や溶出して反応するものもあるかもしれないというような意味合いです。

 

 

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