【第4話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

医薬品不足と構造的対策

6月中ごろ(2024年)NHKが長期化する医薬品不足の問題を取り上げ、改めてクローズアップ現代で報じました。その内容は前回と大きく変わりなく、専門家と称されるゲストの大学教授のコメントにも目新しいものはなく、原因が多岐にわたることや、主な原因が製薬企業、特に2021年初めより立て続けに発生した後発医薬品企業の違法製造による回収や業務停止であることが述べられ、個々の原因についてはそれぞれに対策が進められている旨がコメントされていました。しかし、番組終盤の桑子キャスターの改善への見通しに関する質問に対しては、確たる見解も示されず番組は終了しました。

客観的にみた場合、医薬品不足の原因が多岐にわたることは関係者であれば誰もが認識していますが、大事なことは、それらの原因が構造的に絡み合って今の深刻な状況を招いているということであり、ここに着目し、この縺れた糸の塊を解きほぐす作業を地道に進めない限りいつまで経っても、状況が好転しないばかりか、事態はさらに深刻になるでしょう。深刻さがその度合いを増していることは、調剤薬局のみならず、ドラッグストアの薬剤師や登録販売者の声からも窺えます。例えば、市販の漢方生薬製剤の中には、原料生薬の中国等からの輸入の見通しが立たず、売れ筋商品ながら、販売がいつ再開されるか全く見通せないものも出てきている状況です。

後発医薬品企業の違法製造が医薬品不足の最大の原因とされていますが、この問題は、医療費抑制を目的とした後発医薬品の過度な使用促進や、後発医薬品乱立の安易な許容、毎年の薬価切り下げ、また医薬品の製造販売承認制度(特に、承認内容の変更に関する手続き)などの行政の施策と大きく関係する構造的な問題に拠ることを改めて認識する必要があります。しかしながら、今回のクローズアップ現代の報道においても“悪者”は医薬品企業、とりわけ、後発医薬品の製造所における、GMP省令を初めとする関連の法令違反、つまり、コンプライアンスの問題などがその原因とされ、前回の報道と同様、これに対する改善の必要性が強調されるという偏った報道となっています。

上記の漢方生薬製剤の原料生薬の輸入が途絶えるという問題は、一見、単なる原料調達の問題、例えば、生薬となる薬用植物の不作などが原因であり、構造的な問題ではないと認識されるかも知れません。しかし、特に海外から輸入される、生薬を含むすべての原薬の安定確保も、場合によっては構造的な問題と認識する必要があります。品質規格への要求水準の日本固有の厳格さや、変更管理の厳格さなど、医薬品の承認制度やGMP基準の運用など、関連の行政施策のあり方が構造的に関与していることが否めません。

 

 

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