製薬事業所のペストコントロール【第4回】
査察・監査への対応
ー査察・監査に於ける指摘事例
海外当局による査察(GMP調査)や取引先による監査(GMP/GDP)での指摘は、製薬事業所にとっては悩ましい指摘であると同時に、構築すべきペストコントロールプログラムの在り方のヒントを示してくれる。ここではこれまでの主な指摘例を事例解説しながら、ペストコントロールプログラムの在り方を考えていきたい。
製造所内に昆虫類の調査・捕獲目的で配置しているトラップ類の配置箇所に関する問いである。何故そこに置いているのか、その配置の設定根拠を尋ねる質問であり、配置している根拠が示されないと指摘につながる。米国FDAの査察では、定番の質問の一つと言ってよいかもしれない。このケースについて、査察官に比較的理解が得られやすい回答例としては、対象昆虫類の当該施設への侵入と繁殖のメカニズム(侵入と繁殖のリスク)を整理したうえで、侵入ルート上、或いは繁殖リスクがある箇所に配置していることを説明することである。
例えば、“・・・野外に生息しているキノコバエは、ライトトラップがなければ、出荷場からこのルート(マップを使って図示しながら説明)を通って梱包室に侵入し、さらに包装室に侵入してくるので、捕獲駆除を目的にここと、ここにライトトラップを配置し、さらに侵入していないことを証明する目的で製造室のドア付近に配置している・・・”といった説明になるであろか。
説明に際しては、トラップの配置図と全てのトラップの役割(捕獲目的か、侵入していないことの検証目的か)を説明する文書化した情報が必要である。“ペストコントロール業者に任せているので配置の理由は分からない” といった主旨の回答は、口が裂けても査察官に言ってはいけない。
このケースの査察官の指摘はGMPの要求事項に言及するものであった。本件で引用されたGMPの要求事項は、
EU-GMP Part I - Basic Requirements for Medicinal Products(医薬品)
・Chapter 3: Premises and Equipment (施設および設備)
3.4 Premises should be designed and equipped so as to afford maximum protection
against the entry of insects or other animals.
3.4 昆虫又は他の動物の侵入から最大限に防御できるように、施設を設計し、装備すること。
であり、劣化によって昆虫等が侵入できる状態を是としない考え方である。この考え方は米国連邦規則(CFR21 part 211 cGMP Subpart C-Buildings and Facilities §211.56 Sanitation.)でも、薬局等構造設備規則(省令第二号)第二章 医薬品等の製造業 第一節 医薬品の製造業(一般区分の医薬品製造業者等の製造所の構造設備)でも同じ考え方であり、施設の経年劣化にあまり予算をかけたくない事業所側の気持ちはわかるが、侵入した際にはトラップで捕獲することで補う(施設の経年劣化は容認する)というアプローチは、査察側から認められにくい。
また本件の様に、グレードDであっても清浄区域にトラップを配置する考え方自体が、特にEUの査察官には認められにくい。トラップ配置が捕獲駆除を目的としたものではなく、侵入(或いは繁殖)していないことを検証する目的であること、滅菌したトラップであること、他に検証する方法がないこと、等を説明し、理解が得られる場合もあるが、サイエンスベース、リスクベースのロジカルな説明が必須である。
コメント
/
/
/
コメント