医薬品の原材料管理とサプライヤーオーディット【第4回】

2018/09/28 製造(GMDP)

 
これまでの掲載内容
 ■サプライヤーオーディットの要請と選定評価・承認 (第1回)
  1 はじめに
  2 サプライヤーオーディットの必要性と選定評価
  2-1 GMPの適用領域の広がりと供給業者管理
  2-2 サプライヤーの品質リスクマネジメント (第2回)
  2-3 PIC/S・国内GMPに対応したサプライヤーの選定
  2-4 GDPと品質取り決めの要請
  3 サプライヤー管理における受入試験、サンプリング (第3回)
 ■4 サプライヤーオーディット
 ■4.1 委託先監査(外部監査)とサプライヤーオーディット(供給者監査)
  4.2 原材料製造所のオーディットによる評価法(第5回)品質マネジメント
      システム、建物と設備、水、設計、人と物の動線、封じ込め、文書と
      記録、物の管理、製造とIPC、APIと中間製品の包装とラベル、保管と
      物流、QCラボ管理、バリデーション、変更管理、不合格品の管理・
      返品・クレーム、トレーサビリティ(包装容被製造施設、原薬、製剤
      製造所、原料・中間体、試験施設、委託輸送業者等の実施例)
  5 リスクに応じたサプライヤー管理
    リスクマネジメントの活用によるサプライヤー管理とリスク低減
 
4 サプライヤーオーディト
 前回(2018.2.23)に引続き、今回は委託先監査(外部監査)とサプライヤーオーディット(供給者監査)について、実際の監査準備、監査計画書・報告書に記載から実施内容について詳しく検証する。
(はじめに)
 国内GMPの国際化への大きな転換期として、2004年の薬事法改正における製造販売業の実現である。GMP省令の全面的な改定を受け、全面的な委託製造の実現が可能となった。
・製造承認→元売り/製造販売業承認(製造業から元売行為を分離)(図9
・区分許可から全面製造委託可能 ・開発者が製造所を保有しないで製品化
 この結果、医薬品製造販売業者は、製造委託(アウトソーシング)が自由に出来るようになり、医薬品原薬も含めた原材料のサプライチェーンも大きく拡大することとなった。
●PIC/Sに日本加盟(平成26年7月)
●薬食監麻発0830第1号 通知(平成25年8月30日)
●所謂6つ のギャップの中の、“原料等の供給者管理”の必要性
 直近の省令改正となった2004年以降、ICHガイドラインの進展やサプライチェーンのグローバル化、日本当局のPIC/S加盟日本当局のPIC/S加盟などGMPを取り巻く環境は大きく変化している。その間に施行通知の改正など国際整合性の観点から、見直しが順次行われてきたが、改めて「品質保証のさらなる充実と国際標準ガイドラインとしての基準にする」という観点から議論されているのが今回のGMP省令改正案といえる。


図9 医薬品製造販売業と製造業
 
 こうした中、2018年7月18日に国立京都国際会館で行われたPMDAの櫻井氏の講演で、GMP省令改正案のコンセプトおよび変更点が発表された。櫻井氏の講演「GMP省令の改正について」では、現在は厚労省が最終案をまとめている段階にあるが、「今夏にも厚労省が改正案を示してパブリックコメントの募集を行う見通し」であるとした。
 
第二章 医薬品製造業者等の製造所における製造管理及び品質管理(最終案)
第一節 通則
 第十七条 原料等の供給者管理(新規追加)
 第十八条 外部委託業者の管理(新規追加)
 
 このように省令改正後、「第十七、十八条」が新たに追加される予定である。

4.1 委託先監査(外部監査)とサプライヤーオーディット(供給者監査)
 委託先、供給者との適正な品質契約システムの構築、オーディットの手順の準備
4.1.1 委託先監査(外部監査)
1)製造委託に関するGMP規制
GMP省令:第15条「医薬品の製造工程の一部を他の製造業者の製造所に行わせる
 製造業者は、・・・」
FDA:211CFR(米国連邦法) 84(a)-(e):
   「製造業者が配合成分、容器、栓などの試験及び合否判定を行う事」
EU-GMP(PIC/S GMP):第7章「委受託製造および委受託試験」:
 「委託者は受託者が求められる作業を適切に実施する能力の評価を行う責任が
 ある。」
 「委託者は、受託者から委託者に配送された全ての製造された製品及び原料が
 それらの規格に適合することを保証すること。」
 「委託業者のPIC/S GMPにある全ての原則遵守を、契約により保証」
ICH Q7(原薬GMPガイドライン)第4章:
    4.1 原材料等の供給業者、4.2 製剤製造業者、4.3 受託製造業者
ISO 9001(2015年):品質基準「受託者の能力を、仕様と品質要件を満足する
 適切な活動及び計画提供できるかどうかを保証すること」、監査基準(3.13.7)
 「監査基準が満たされている程度を判定するために、客観的証拠を収集し、それを
 客観的に評価するための、体系的で独立し、文書化したプロセス」
2)製造委託先の選定と監査のポイント
 製造委託先の選定は、以下3つのポイントに集約される。
  ■委受側が委託者側の期待に答えられるか?
      (品質、受容能力、技術力、確実性、協力性、・・)
  ■低コストで高品質の製品を安定して供給か?
  ■規制当局の承認と対応が迅速で、その能力があるか?
 それに対する監査の目的は、受託側のレベルが委託側の期待に見合うことの確認である。実地確認は企業毎や製品の特殊性に応じて、種々の評価シートが存在するが、チェックポイントを以下に示した。項目毎にリスク評価し、客観的な評価の根拠とする。
(評価のチェックポイント)
 1.   生産受容能力
 2.   品質管理及び品質保証対応能力 + 低コスト
 3.   薬事関連の規制要件に対する理解及び対応能力
 4.   委託側の要求内容に対する把握、及び的確な理解とコミュニケーション能力
 5.   原料及び各種資材・設備の調達能力(安定供給)
 6.   委託側と類似した製薬関連製造経験及び人材資源の対応能力
 7.   付帯サービス業務処理能力
 8.   企業としての業界評価からの信頼性
 9.   競合他社に関する懸念の有無(類似製品の受託可能性の確認)
 10. 融通性(納期、生産規模の変更など)
 11. FDAなど、行政機関による生産承認取得の有無(迅速性)
 
3)製造委託先への監査
 委託者と受託者の関係(委託者⇒受託者への監査)
 委託者
 ・受託者側における所定の製造・試験実施能力と製造管理、品質管理状況の確認
 ・受託者がGMPを遵守していることの確認と保証(契約受託者が適切に作業を
  行うための必要情報の提供
 ・受託者から供給された製品の評価と出荷責任者の承認
 受託者
 ・受注内容を遂行できる適切な施設・設備、技能・経験・能力を有する従業員の
  確保
 ・委任された業務を委託者による事前承認なしに第三者へ移管することの禁止
 ・委託された製造・試験に関わる製品の品質保証
  委託者は、託者を訪問して、あらゆる手順、試験、品質システム等が適切に実施
  されているかの事前確認、又は委託後であれば製造管理、品質管理状況の適切な
  運用の実施状況の確認が重要な鍵となる。
4)製造委託の問題点と対応
(1)製造スケジュール
 ・契約、文書・製品授受に時間を要する
 ・委受託双方の社内事情の違い
 ・言語、文化の違い(海外展開)
(2)委託先への技術移管
 ・社内技術移管以上の労力(しかし、例外もある)
 ・技術指導を行う要員の確保
 ・遠隔地(海外展開)、技術指導を行う要員の確保
(3)受託者側のGMP管理
 ・原則、委託側のGMPレベルを委託先に要求する
 ・ハード・ソフト両面で不適切な施設への改善要求とコストへの跳ね返り。
  何処まで妥協できるのか?
(4)セキュリティ管理・ノウハウをどこまで開示するか?
 ・受託情報が他企業へ漏洩するおそれがある。

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執筆者について

高平 正行

経歴 エイドファーマ 代表
NPO-QAセンター 理事 事務局長
1979年塩野義製薬(株)入社。製薬プラントの立上げ、医薬品製造管理者、合成研究等の製造業務を経て、品質保証部へ転出。信頼性保証本部 品質保証部 次長として、GMP統括管理、GQP品質保証業務(出荷判定、逸脱・品質不良、変更管理、苦情・回収)、国内外にある自社製品関連170箇所製造所のGQP/GMP/QMS/CMCの信頼性保証、医薬品・診断薬・医療機器製造所のGQP/GMP/QMS適合性監査などを約10年間統括する。また、医薬品医療機器総合機構一変・軽微変更、製品管理業務、国内外の医薬品品質保証ガイドライン等のカスタマイズ化にも従事する。
2011年12月より(株)エースジャパン 取締役 製品戦略担当。医薬品の原薬、中間体を中心とした品質保証、製造・試験、製造販売管理全般にわたり経営の視点から携わる。
2016年6月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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