医薬品開発における非臨床試験から一言【第64回】

2025/04/11 非臨床(GLP)

代謝物の発見と定量

代謝物の発見と定量

創薬での代謝物の研究は、安全性に問題がないか、毒性的・薬理的に活性代謝物でないか、これらを含めて薬物動態的なプロファイルをどのように示すか。など、様々な視点での評価が必要です。そこで、「代謝物」を認定する道のりを示し、定量するまで、定量できるようになってからの判断についてまとめていきます。

低分子化合物の開発では代謝物の研究は非常に大切です。薬理的な標的細胞を用いたスクリーニング研究から創薬の候補化合物を選択します。また代謝を受けやすい部位の推定を含めて、in silicoでの手探り的な研究も重要です。この段階では明確な判断基準を置き、効率よくスクリーニングを行うことが大切です。

候補には、標的とする生理的分子に対する結合性が良い化合物を発見することが大切です。ハイスループットスクリーニングのような手法での取り組みも多く行われました。標的蛋白(酵素)との結合性を重視すると、水溶性が基本の生体内環境に対して、疎水性化合物が選択されやすいようです。そのため経口投与時の吸収性、標的臓器への分布を含めて、薬物動態的に課題の多い化合物となります。

活性代謝物が見つかり候補化合物に格上げする場合もあります。経口投与剤の場合は、当該の候補化合物(活性代謝物)を実験動物に投与して実際の薬理活性を評価します。少なくとも、薬物動態的に吸収されて十分な血中濃度が維持され、さらに標的臓器に分布することを確認します。薬理活性のみで、毒性的な懸念がないことも大切です。

さらに代謝物の活性として、共有結合性も困った課題です。生体内での代謝活性化を経て、タンパク質のシステイン残基やDNAの窒素原子と共有結合し、毒性発現を示すことがあります。そのため、スクリーニング試験に共有結合試験があります。反応性代謝物の毒性を定量的に評価するため、一般的には親化合物の14C標識体を用いて試験を行います。ヒト肝ミクロソームとインキュベーションを行い、代謝過程において蛋白質との共有結合量を測定し判断します。

創薬でのin vitroスクリーニング研究は、コストの割に得られる情報が限られており、優れた研究基盤(判断基準)と新規性の高いリード化合物が重要です。そのような背景の中で、in silicoの手法が効果的な創薬を支援できます。

得られた候補化合物の薬理作用が有用なものと認定されると、代謝物の検索が並行して行われます。そこには大きく2つの課題があります。まず親化合物の減少速度です(代謝安定性)。親化合物があまりに早く消失すると、「薬物」としての存在感(曝露)がありません。次に、生成される代謝物を検出し、構造を推定して、代謝物の安全性を推定します。

医薬品開発の探索段階では、代謝安定性や活性代謝物のスクリーニングを行い、代謝物毒性の懸念の少ない化合物を選択します。ヒトと実験動物から得た肝S9(9000xg上清画分)、肝ミクロソーム、肝細胞等の試料を用いたin vitro代謝試験を実施し、代謝のプロファイルと種差を確認します。次に代謝物の生成と代謝速度からヒトでの代謝との類似性を指標に毒性試験に使用する動物種を決定します。さらに、主要なヒトCYP酵素発現系用いた代謝酵素の同定も行われます。

一方、親化合物と代謝物の定量分析には、液体クロマトグラフィー(Liquid Chromatography)が用いられ、分析対象物の特性に応じて幾つかの検出器を使い分けます。
UV/VIS検出器:UV/VIS(紫外可視分光)検出器は、190nm~900nmに吸光をもつ薬物/代謝物を測定可能です。極大吸収波長に合わせて測定することで感度が向上します。

 

 

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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