医薬品開発における非臨床試験から一言【第60回】

2024/12/13 非臨床(GLP)

トキシコキネティクス(TK)をキーワードに、柔軟で科学的な判断を行い、迅速な創薬の取り組みについて。

トキシコキネティクスの見方

トキシコキネティクス(TKと略します)は、1996年のICH S3A「トキシコキネティクスに関するガイダンス」が基本になります。そして2010年のICH M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」でTK試験の実施タイミングが示されました。この2つのガイダンスを基本にTKの見方を示します。

「トキシコキネティクス」(TK)が毒性試験での薬物の曝露を示し、「ファルマコキネティクス」(PKと略します)が薬物動態の曝露を示します。ICH S3Aガイダンスのタイトルは「暴露」と表記されていますが、目次以降の本文は「曝露」と表記されました。薬物動態では「曝露」を使用しています。またICH M3(R2)では「暴露」の表記です。ただし、「医薬品 非臨床試験ガイドライン解説(薬事日報社)」では、3-3項 トキシコキネティクス(毒性試験における全身的曝露の評価)」、7項「非臨床試験の実施時期」などで「曝露」に統一されています。英語は「Exposure」なので、日本語表記の揺らぎはなんとも。曝露と暴露の混在表記もみられます。ここは、原本表記で書き進めます。

ICH S3Aガイダンスでは「曝露」の意図が示されました。投与量と血中濃度で示される全身的曝露には、動物の個体差、系統差、種差が存在することが多く、一般的な毒性試験結果のように、投与用量をもとに動物での毒性を、ヒト(臨床)に外挿する事は必ずしも適切ではないと考えられます。つまり、用量と毒性を直線的な相関で表現することは誤解を招きます。

そこで、ICH S3Aガイダンスでは、毒性試験に使用した動物、あるいは同様の条件下にある動物から採血して薬物濃度を分析することで、薬物による全身的曝露の状況を明らかにし毒性試験結果と合わせて、臨床での曝露からヒトでの安全性評価を考えます。また、TKから得られた結果は、毒性試験での動物種の選択や用量設定にも利用できます。

TKデータの裏付けが必要な毒性試験には、単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験、及び生殖毒性試験があります。TK試験はこれらの試験の一部として実施します。また、TK試験は安全性試験に不可欠のためGLP基準で行います。一方の薬物動態試験は、日本では信頼性基準になり、世界的には必ずしもGLPでの実施は求められていません。

TK試験は、ICH S3Aに加えてICH M3(R2)なども含めて、被験薬物の特性や得られた情報に応じて科学的に判断することが必要です。また、統計学的な意味での高い精度は必ずしも必要でないとされました。

例えば、毒性用量の経口投与では、消化管吸収の飽和が生じると、曝露量に用量相関性が認められません。ただし、吸収過程の飽和よりも先に代謝過程に飽和が生じると、被験薬物の血中からの消失が遅れて急激な血中濃度の上昇が起きます。このような非線形の薬物動態が生じる可能性も非臨床試験で考えておきます。

また、「活性代謝物」の曝露が注目され、曝露が大きい代謝物はICH M3(R2)のルールに従って評価を加えます(後述)。もちろん、臨床に移行する前の段階では、まず被験薬物のTKが求められ、非臨床での薬物動態情報を加えて毒性評価に役立て、総合的な安全性評価を目指します。

TKとは「医薬品の開発における毒性試験の不可欠な構成要素として、或いは特にデザインされた補助的試験として、全身的曝露を評価するために、薬物動態データを得ること」と定義されています。そしてTK資料は毒性知見の解釈及び臨床上の安全性との関連についての解釈に用いることができます。

ICH S3Aでは、TKの意義と適用に関する見解が示され、TK試験計画立案のための手引きとして作成されました。創薬において、先行して情報が集約されている薬物動態学的分析・解析法を、毒性試験に組み込む必要性が強調されています。つまり、薬物動態的な曝露の考え方が、毒性所見を解釈するのに役立ち、合理的な創薬の試験計画の立案になります。

 

 

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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