最新コスメ科学 解体新書【第10回】

温泉とスキンケア

 温泉大国山形! 山形県には鳥海山・蔵王山・吾妻山などの活火山と130もの温泉があり、それぞれに個性を競っています。暇な週末にぶらっと入りに行ったり、お客さんが来たと言っては連れて行ったり、職場の懇親会の前にひと風呂浴びたり。温泉は本当に身近な存在なのです。

 そんなところに住んでいると、温泉と美肌の関係について質問されることがままあります。先日も、何百年も続く温泉旅館の若旦那とそんな話しになったのですが、これがなかなか難しい・・・。温泉の効果効能については世界中の研究者が関心を寄せており、古くからその成分の分析がなされてきました。北海道大学理学部科学教室では「温泉の化学的研究」と題する論文を1938年から1960年までの間に59報発表しており、温泉に対する並々ならない思いが窺われます 1)。しかし、そこに含まれる成分はミネラルと呼ばれる無機イオンからオイルまで多岐にわたっており、さらにその濃度・温度・pHによって皮膚への影響の仕方は劇的に変化します。さらには温泉への入浴と美味しい食事・お酒・宴会はセットの場合が多く、温泉が皮膚の状態や美に及ぼす影響を系統的に解析し、普遍的な法則に落とし込むことはAIが発達した現在でも、一筋縄にはいかないのでした。

 何十、何百と含まれている成分のうち、なにが皮膚の状態を改善してくれるのでしょうか? いわゆる「美肌の湯」と呼ばれれるものの多くは温泉水のpHが高いアルカリ性単純温泉で、お湯から上がった後に肌がすべすべになるためにそのように言われています。(株)ツムラと北海道大学のグループが15名の被験者に通常のお風呂と炭酸水素ナトリウムを溶かしたアルカリ性のお風呂に入浴してもらう試験をしたところ、皮膚が柔軟化・粘弾性化するとともに保湿性も上がることが確認されました 2)。アルカリ性の水が皮膚の最表面の角層やその構成成分である脂質・タンパク質に及ぼす影響についても研究がされています。ユニリーバのグループはアルカリ性の界面活性剤水溶液で角層を処理した時の状態を光干渉断層撮影と赤外線分光法で測定し、角層が膨潤するだけでなく、細胞間脂質を固くすることを明らかにしています 3)

 一方で、pHの低い酸性泉や硫化水素などを含む硫黄泉はアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬に効果があるとされています。カネボウ(株)と群馬大学のグループは、草津温泉での温泉療法がアトピー性皮膚炎の急性炎症や難治の皮膚炎患者の悪化を制御する上で有効だったことを報告しています 4)。アトピー性皮膚炎の患者の皮膚の炎症の重症度と黄色ブドウ球菌(S. aureus)の皮膚における生息数は相関するのですが、このS. aureusの数は草津温泉の温泉療法の後に減少または消滅したということです。ただし、この殺菌力は酸性であるだけでなく、マンガンとヨウ素が存在しひていることが必要であることが明らかにされています。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます