ゼロベースからの化粧品の品質管理【第43回】

 

―ISO9001との融合によるGMP体制の整備について―


 化粧品のGMP(Good Manufacturing Practice)に関する実務面からの留意点について述べさせて頂いています。
日本における化粧品のGMPの要件は、ISO22716:2007が2007年に発行され、その後、日本化粧品工業連合会(粧工連)によって2008年に「適正製造規範」として採用されています。その後、この規範は業界の一つの標準として広く認識されています。しかしながら、ISO9001や医薬品GMPのように定期的な改訂は行われていません。その一方で、化粧品業界を取り巻く環境は急速に変化しており、デジタル化が進み、オンライン販売やソーシャルメディアを活用したマーケティングが重要となっています。そのため、製品の品質に関しても消費者とのコミュニケーションやオンライン上での品質情報提供が求められるようになっています。
 さらに、日本の化粧品メーカーは国際市場で競争する必要があり、国際的な品質基準や規制に適合することが求められています。そのため、従来の品質管理や規制対応だけでは不十分となっており、国際基準やトレンドを把握し、それに基づいた製品開発やマーケティング戦略を展開することが重要となっています。
このように、化粧品の品質保証体制は業界の発展と変化に合わせて常に見直される必要があります。そのため、国際的な規制や市場の動向を注視し、適切な対応を行うことが、企業の競争力を維持するために不可欠になっています。
このような環境の変化の一つとして、医薬品GMPではISO9001との融合の動きがあり、化粧品においても、この考え方は重要です。
 そこで、今回はISO9001とISO22716の要求事項の違いについて再度整理すると共に、統合された品質管理システムへの移行について考えてみたいと思います。

1.ISO9001とISO22716の要求事項の違いについて
 ISO 9001は法的要件ではなく、製品やサービスの品質保証と顧客満足の向上に焦点を当てた継続的改善を目指す任意の活動です。一方、医薬品GMPは法的要求に基づいていますが、化粧品GMPは自主基準であり、ISO22716が採択される前の原薬に関するものであり、医薬品GMPとは異なりISO9001をベースにしています。しかし、両者には異なる点がありますが、品質要求の達成に焦点を当てた考え方が共通しています。
 ISO9001では製品とプロセスの改善に焦点を当て、リスク管理を通じて品質プロセスを改善し、品質要求に応える体制を整えます。そのため、ISO22716の体制を整える際には、品質要求の達成を基軸に置く必要があります。ISO9001では手順を整えて製品品質の向上を効率的に行いますが、ISO22716では確立された品質を安定的に保証する体制を整えます。分かり難い話になりますが、ISO9001では手順を整えて製品品質の向上を効率的に効果的に行うプロセスに対して、ISO22716ではマックのハンバーガーのように確立された品質を、何時でも安定的に保証する体制、手順を整えることになります。従って、両者の融合を図るには、このアプローチの違いを理解することが重要です。
 
①品質保証の対象について
 先ず、ISO9001では、組織は外部および内部の問題を理解し、利害関係者の要求事項を考慮して適切に対応する必要が求められています。要求事項は法的要求事項を含みますが、先ずは顧客の要求事項を明らかにすることになります。
 これに対して、ISO22716では法的な制約事項、要求事項への適合が前提になっています。ISO22716では原料や製品、表示等の広範囲において具体的な法的要求が示されており、その適合性していることが大前提になります。更には、各工業会の自主基準、化粧品として求められる安全性への適合、製品として求められる品質や機能への適合が求められます。更には、化粧品においては顧客要求の中には官能や感性の要素も含んだものが製品品質になります。言い換えれば、ISO22716の体制を整える上では、法的要求等のウォッチング体制、要求への対応が真っ先に優先される事項になります。
 ISO9001における内部環境、外部環境への変化への対応に関しては、ISO227161においては化粧品の製品の品質と安全性に影響を与える可能性のある外部環境要因(例: 原材料の変化、市場の要求変化、法的要求変化)は特定されており、これらの外部環境要因を適切に把握し、それに対処することが求められていると言えます。正直、原料や材料の安全性に関する情報は頻繁にアップデートされていますが、ISO22716の管理体制が整っているという企業でも、必ずしも体制が整っているとは言えない印象を持っています。
 一方、ISO22716の適用範囲には研究開発、物流は含まれておらず、原材料の受入れから製品の出荷までを対象としています。従って、別の見方をすると医薬品等ではGCP、GLP、GMP等の要求事項を全て網羅したものがISO9001では対象となっていると言えます。従って、ISO9001の方が要求事項の範囲は広く、事業者がGCP、GLP、GMP等の要求事項の中から製品やサービスで対象となる利害関係者の範囲を特定し、該当する部分の要求に応えることになります。勿論ISO22716に基づくGMPでも、例えば、製造所として設計を行わない場合にも技術移転に際に行われる製品としての開発時に確認された要求事項は確認し、その品質を確保するための体制が求められることになりますので、設計要素の部分の把握が全く必要でないとは言えないためISO227116の体制だから品質保証の体制が狭くても良いとは単純には言えません。
 
②ISO22716の要求事項での特徴的な事項
a)衛生管理に関する事項
 GMPというと先ずは衛生管理と感じる方が多いと思います。人員に関する衛生と衛生管理、製造施設の衛生と衛生管理が求められることは直ぐに理解されます。そこで、ISO9001では製造管理規定書、品質管理規定書の部分は網羅されていると考えますので、GMPではこれに衛生管理規定書を追加で定めると考えると分かり易いと思います。勿論、製造管理規定の中でも設備に関する洗浄、消毒、保管の管理に関することを規定書の中で網羅することでも可能です。しかし、先ずは衛生管理規定書を定めてみるとGMPの全体像が明確になると考えます。
b)製造のプロセスの管理と製品の品質管理
 ISO9001ではリスクアセスメントに基づく管理が求められています。一方、ISO22716では法的要求や設計品質に基づく品質水準の確保が前提になっています。最近では、GMPでもリスクアセスメントに基づく管理が求められており、ISO9001の要求事項の方がある意味では幅広く捉えられているように感じます。但し、GMPでは繰り返し精度としての再現性が求められており、単に品質規格に収まっているだけではなく統計的に従来のトレンドから外れた場合には逸脱管理の対象とする考え方があることは重要で、誰が、何時行っても、高い品質水準が確保されるという考え方がベースになっていること、つまり単に手順を定めるだけでは不十分であることの理解は重要です。
c)製品のリリースと貯蔵
 ISO22716では製造所からの出荷に際して試験検査の結果だけではなく、逸脱情報、衛生管理、取引先からの安全性に関する情報の把握が求められていることが特徴的です。従って、ISO9001の体制に対して、従来の出荷検査の結果に加えて、出荷判定に関する必要な確認事項、製造関連の事項、衛生管理の事項、安全性に関する事項の確認のプロセスを追加する必要があります。
 
③ISO9001の体制の中でISO227161への対応で特に明確にすべき事項
a)製品の安全性と有効性の評価
 ISO9001では顧客要求の中に含まれていますが、化粧品では直接皮膚や肌に接触する製品が対象になりますので、安全性と有効性の評価が必要です。ISO9001の品質管理の中でも、微生物保証を含む安全性の確認結果や有効性の評価結果を明確に定め、保証する体制が必要です。特に、ISO22716の製品管理体制では、例えば、製品がしわを伸ばす効果を謳う場合、その製品の有効性をどの項目で保証されるのかを明確にすることが重要です。
b)原材料の管理とトレーサビリティの確保
 この点もISO9001で含まれていますが、ISO22716では特に重要視されます。市場に出荷された製品について使用された原材料まで遡り、問題が発見された場合には対象となる範囲の特定が求められます。このトレーサビリティの考え方は、試験結果で使用した検査機器も含めて重要視されます。ISO9001では検査結果のみで止まることがありますが、ISO22716では製品の原材料から販売までの全体像を把握する必要があります。
c)衛生基準の厳守
 ISO22716の要求事項での特徴的な事項でも述べましたが、プロセス管理の中で全てのプロセスにおいて衛生管理に関する管理とその遵守の結果を明確にする必要があります。この点はISO9001の手順書では抜けているケースがあるため注意が必要です。
d)教育訓練
 製造プロセスの適切な理解と実施を確保するために、従業員の訓練プログラムを強化し、定期的な教育を提供する必要があります。ISO9001では作業者を中心にスキルマップ表による管理が行われますが、GMPでは管理者や一般従業員に対するGMPの一般教育に加えて、出荷判定者やサンプリング実施者等の指定された業務を行う人を認定し、その業務に対応した教育をすることが求められています。ISO9001では職制による組織ごとの教育となりますが、ISO22716ではGMPの機能毎の教育体系を整える必要があります。従って、会社によっては、求められる業務事項と教育事項をマトリックス表にして管理しても良いですし、個人的には通常の業務の教育とGMP教育を分けて明確にしておいた方が分かり易いように感じます。尚、最近ではこれらもコンピュータによるクロス集計で教育と教育結果を管理することが可能です。

 このように、ISO9001の体制の中でISO22716に特に明確にすべき事項を把握し、適切に対応することが重要です。製品の安全性と有効性の評価や原材料の管理とトレーサビリティの確保は、特に化粧品業界において重要な要素です。これらの要求事項を明確に定め、体制を整えることで、品質管理と顧客満足の向上に貢献することができます。また、ISO9001とISO22716の相互適合性を確保するために、両者の要求事項の差異を理解し、それぞれの体制に適切に反映させることが不可欠です。
 

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