ゼロベースからの化粧品の品質管理【第42回】
―外部委託先の査察を効果的に行うためには―
化粧品GMPに関して、実際の運用面から留意事項についてお話させて頂いています。
今回は、化粧品製造所の査察を行う際の留意点についてお話しします。査察は、ISO22716の適合性を審査する目的と製品の品質を確保する目的では監査の進め方が異なります。化粧品製造所の査察というと、ISO22716の要求事項に過度に縛られているように感じられます。安全・安心の化粧品を市場に提供するという目的では、法規への適合性の確認からはじまるもう少し高い視点から俯瞰的に行うべきだと感じます。
例えば、OEM先の製造所の監査を行う場合には、手順書の作成とその手順が遵守されているかを確認します。しかし、成分や処方組み立ての背景、使用されている製造装置の特性やオペレーション上のリスクが明確ではないため、手順書が作成されていても、その手順が適切かどうかを判断するには品質リスクの認識と評価が必要です。ISO22716の要求項目に合致した文書が作成されていることのみを確認するのでは不十分であり、品質リスクアセスメントの実施が重要です。作業者の教育実施結果や実際の標準作業の順守状況、運用状況を確認する際も、適切な教育やレベルを設定するプロセスが適切に検討されていることが重要です。
査察では表面的なサンプリングしか行えないため、品質リスクに対する計画、運用、評価、是正のサイクルが上手く回っているかが最も重要です。
従って、実務面でOEM先の査察を行う場合には、個々の要求事項への適合状況の確認よりも、品質リスクの実施が優先されます。監査先の担当者から手順書そのものがどのように作成されたのか回答状況を判断材料とすることが重要です。
以下では、実際の製造所で不適合が発生しやすい箇所を中心に、初めての査察と定期的な査察の場合に押さえるべき事項について説明します。
OEM先を選定する際には、企業の販売実績や取引先の状況、保有する設備インフラ、労働者数やシフト状況、工場のレイアウトと人・モノの動線などを事前に十分に把握し、初回訪問時にはトップインタビューを通じて製品およびその品質に関する考え方やトップポリシーを確認し、パートナーとしての適格性を確認します。
その後、製品の品質、納期、コスト面について現場査察を行います。これらの調査の結果を踏まえ、以下の項目を明確にし、問題のない供給者として位置付けます。
次に、製造施設や研究施設について、適切な認定がされているのか、ライセンス、許可の状況などについて確認を行います。工場の稼働に対して制約がある場合もありますので注意が必要です。しかしながら、監査側からは個々の許認可の状況について指摘は難しいため、監査先から制約事項の説明を受けることになります。但し、これらの事項は監査先からはなかなか積極的には話題が出ないため注意が必要です。ある会社では、街頭を含めた照明による遅い時間では工場から光が漏れないことが要求されており、窓側ラインでの生産が出来ない工場もありました。
また、海外に化粧品を輸出している場合には、国内の許認可と異なる場合があります。アメリカや中国向けに製品を輸出している場合には、医薬品等の扱いに該当するケースもあり、原材料の管理も日本の化粧品とは異なる対応が必要になるため、海外に輸出している工場では、法的要求が認識され、ウォッチングされていることの確認が必要です。
過去、査察を行った際に、危険物の取扱で法的要求事項に抵触していると思われるケースがありました。当局ではないためなかなか指摘は難しいのですが、アルコールの保管量、製造現場での取扱量、製品の表示、輸送に関する制約について管理が適切でないケースがありました。危険物倉庫の指定数量の管理、製造現場の管理、危険物製品の物流に関して、法的認識が甘く、行政から指摘を受けた場合には工場の稼働が即停止になる状態だった工場がありました。
また、GQPの要求に基づく製造業者への適切な頻度での査察が行なわれていないケースがありました。特に、海外製造所の査察は費用や時間的な問題もあり、実施されていませんでした。製品の品質確保の面からは懸念される事項です。この場合には、書面による査察やリモートによる査察手段も考えられます。しかしながら、この事業所では、直接の現地査察しか想定していなかったため実施していなかったようです。
更に、GQPでは、肌トラブルに対する適切な措置や安全部門との連携、品質情報を製造販売業者に集約する仕組みが要求されています。この要求に対して、具体的なアクションプランまでの落とし込みがされておらず、運用もされていないケースがありました。同様に、GVPでは安全情報の管理が要求されていますが、そもそも安全管理情報をどこから、どのように入手するのかが明確にされておらず、運用もされていないケースがありました。最近ではインターネットによる情報入手が可能であるものの、実際の運用面ではハードルが高いため、海外の各国政府の規制の情報入手や輸入原料に関する情報入手は、なかなかタイムリーに行うことが出来ないのが現状のようです。
他には、委託先が適切な品質管理システムを持っているかどうか委託元として把握していることが必要です。品質管理プロセス、文書化された手順の体制、トレーサビリティ管理、変更管理などについて、委託元として管理体制をどのような方法で確認しているのか、委託元の管理体制についての確認が必要です。
この場合にはISO22716の要求事項を一つ一つチェックするのではなく、プロセスとして捉えることが重要です。
また、当局や取引先を含む外部機関による監査の実施状況を確認します。逸脱や不適合品の是正処置以外にも積極的な改善に対する変更管理が行われていないといけないと考えますが、是正処置に止まっているケースが多いのではないでしょうか?
マネジメントレビューについては、好ましくない事項やクレームの受付状況の話題に止まりがちですが、品質に関する良い実践や成功事例を共有することが必要です。他の部門やプロジェクトに水平展開する機会を模索することも重要です。また、品質方針や品質目標の達成状況、品質関連のリスク、品質マネジメントシステムのパフォーマンスなどについても、査察時には議論が必要です。特に、品質目標に達していない結果には、直接的な原因の分析と是正処置に止まっているケースが多いように感じています。目標に達していない場合には、体制や仕組みの不備として捉えて議論の深掘りが必要です。一方、計画そのものが安易に立てられている場合もあり、実行計画がロジカルに立てられていないケースもありますので注意が必要です。
しかしながら、取引を行う際の査察は、双方で良いものを作り上げるという姿勢で査察を進めること、指摘をするのではなく妥協点や改善を見つけ出す目的であることの認識が必要です。審査を行うのではなく、積極的にベストプラクティスを見出す、他社の好事例を案内し、意見交換の場とする意識が重要であると考えています。
一方、査察側としては、今後の取引をスムースに遂行するために、それぞれのプロセスでの有効なコンタクトパーソンを見極めることも重要です。
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