再生医療等製品の品質保証についての雑感【第59回】

2024/03/08 再生医療

水谷 学

飛沫の発生機序とその制御については、当研究室の小川祐樹先生が、2019年にRegenerative therapyで発表した「Understanding the formation and behaviors of droplets toward consideration of changeover during cell manufacturing」が参考となります。今回はその要素についてご紹介します。

第59回:生産計画におけるキャンペーンの考え方と製造環境の管理 (5)


はじめに
 前回、無菌操作に関するガイドライン2022のAPPENDIX「A4. 清浄化を伴わないチェンジオーバーの運用に関わる製造装置の設計・検証事例」に関する検討(バリデーション設計)のグランドデザインを概説しました。清浄化(その中の清掃作業)を伴わずに次工程を開始できる条件は、「(残留物に関する)動態の制御」および「(次工程に)影響が生じることの否定」ができる工程開発とその検証となります。
 前者において、最も動態の制御が難しい残留物は、ピペットでの液体操作などを含む開放系作業に伴う、飛沫であると考えます。飛沫の発生機序とその制御については、当研究室の小川祐樹先生が、2019年にRegenerative therapyで発表した「Understanding the formation and behaviors of droplets toward consideration of changeover during cell manufacturing」が参考となります。今回はその要素についてご紹介します。


●飛沫の発生機序について
 ピペット操作などで飛散する飛沫は、注液時の動作で発生する微小な液滴で構成されます。論文において、液滴は、図1に示すように、吐出口(ピペットの先端)からの空気の噴出による液膜の薄化によって生じた単一の気泡が破裂することで発生することを確認しました。発生した液滴は、初速度を持ち、形成した気泡の外側にランダムな角度で飛び散ります。気流に乗る極微小の液滴は、グレードA環境の気流とともに排出、除去されると想定します。他方、気流に乗らない比較的粒径の大きな液滴は、重力により落下を開始します。落下した液滴の多くは、飛散方向に遮蔽物(容器の内面)が存在しなければ、吐出口から一定(想定される範囲)の距離の位置に落下しますが、初期に形成される液膜の厚さと排出される空気量の相関により、過剰な液膜の膨張・破裂が生じれば、グレードA内部の壁面や工程資材、機器などに付着します。(液滴の落下位置が変動する詳細な条件については、論文を読んでいただければと思います。)

図1.  注液操作時における飛沫発生のイメージ (論文「図5」より該当部分を改変)


●飛沫の動態を制御する考え方
 上記の飛沫発生機序より、飛沫の原因となる液滴の拡散を防止(制御)する方法は、大きく2つ存在することがわかりました。1つは、気泡の形成と破裂を防ぐことで、具体的には、ピペットから液の全量を押し出すのをやめることです。もう1つは、気泡が破裂する位置を容器の深部に設定し、容器の外側への気流に乗らない液滴の拡散を防ぐことです。(ここで気流に乗る液滴のミストは、グレードA区域の気流とともに排出されます。)論文では、それ以外の方法として、容器から漏れる液滴を床面の限られた表面積に着地させることが示されていますが、前述の2つの方法と比較して、より高度な動作の制御と検証が必要と考えます。
 ここで機械操作を採用できれば、1つめの注液時に液を全量出し切らない条件が適切に設定可能で、再現良く実施できると想定できます。また、2つめのピペットの吐出口を容器の深部に固定することも、適切に設定できるので、優位性があると考えます。


●清浄化を伴わないチェンジオーバー
 論文では、チェンジオーバーに関するガイドライン2019と同じ分類の考え方で、チェンジオーバーに向けた環境維持の考え方を示しています。図2に示すように、注液時に液を全量出し切らない条件(A)と出し切る条件(B)がそのまま、同ガイドラインの表1(本稿の最後>次ページに記載)の分類AあるいはBと相関します。
 

図2.  無菌操作環境が継続するチェンジオーバーの運用イメージ(論文「図5」より該当部分を改変)


 いずれの条件でも、無菌操作等区域内の無菌性が維持され、初期化(無菌化を含む環境の再構築)は必要ないことが前提となります。その上で、交叉(異物混入)の原因となる液滴の残留が否定できる、分類Aならば、次工程に生じる影響を除去する清浄化において、清掃作業は要求されないと考えます。液滴の残留が生じる、分類Bでは、次工程の操作が残留と接触するならば清掃作業は不可避です。対して、図2の3段目のように、次工程の操作が残留物と接触しない作用手順が設計できていれば、清掃作業が要求されない可能性があります。このときリスクとして考慮しなければならないのは、落下した液滴が飛沫核となり再浮遊した場合に、区域内に滞留し続ける可能性の否定となります。これは、設備であるグレードA機器の適格性評価(一方向流の気流管理設計)で対応できると考えます。

 

 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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