新しいGMP教育訓練像を求めて【第5回】

2017/09/30 品質システム

"はじめに
 この連載記事の目的は、約10年後のGMP教育訓練が置かれている状況を推測し、その対応の方向性と、今からどの様な心構えを持ち、準備をすべきかを述べることにある。また、対象読者として「QA部門のGMP教育担当者」と「工場のGMP対象部門の管理職」を前提としている。そのために、連載記事の内容が現実の問題点を捉えておらず、「概念的な話であり、現実味に欠けている」という意味のコメントを頂戴している。そのコメントに応える形で書き上げたこの記事が、いまだに“抽象的”な域を出ないことは、ひとえに筆者の力量の不足によるものである。
 筆者等も長年にわたり企業内でGMP教育訓練を担当していたので、ご批判は正鵠を射ており、真摯に受け止めなければならないと感じている。その一方で、教育を実施する場合の立場の違い(訓練者側の思いと、受講者側の思い)、それに加えて個人の考え方や置かれている状況は大きく異なっていることも経験している。話が抽象的になると普遍性は高まるものの、現実の問題への応用が困難になるこれは、全ての教育訓練に共通する悩ましい事項である。
 これまでの連載記事は、目的や読者の対象者層を考えて普遍性を優先させたが、頂いたコメントへの反省の意味を込めて、今回は、あえてこの「思いの違い」を取り上げることにした。「思いのギャップ」の問題は10年後であっても、基本的にその状況は変わらないであろう。
 
1. 製薬工場の経営陣は、GMP教育訓練をどのように見ているか?(経営側の思い)
 製薬工場の経営陣がGMP教育訓練の実施する理由は数多くあるが、代表的と考えられる7項目の理由を分類して、それにタイトルをつけてみた(図1)。その分類項目のタイトルは「期待」、「義務」そして「心配」である。筆者等が経営陣の方々からGMP教育訓練の在り方の思いをお聞きする機会はめったにないが、次の事例を通してこの問題を考えてみたい。
 かなり前のことであるが、ある大手製薬企業は、行政から従業員の教育の再実施を含む厳しい指摘を受けた。その対応の一つとして、GMP教育訓練のシステムを変更した。筆者が訪問したその工場(中規模)の教育訓練システムは、第三者である筆者からみて素晴らしいものであった。当然、そのシステムの維持には大きなリソース(経営資源:資金・人材・時間)が配分されている。
 その教育システムのご説明を受けた時に、工場内の一般区域の清掃担当者にも、日本薬局方の内容や変更時の教育をされているとのご説明であった。非常に徹底したGMP教育訓練の内容であるといえる。その工場は、前記の教育システムの導入後に、企業の経営戦略の変更により、他社に売却され、製造受託企業として運営がされている。筆者がその工場を辞する時に、工場長がふと漏らしたのは「やはり運営が大変で、見直しをしないといけないと考えている」という一言であった。



図1 製薬工場の経営陣のGMP教育への思い
 
 この事例では、一般区域の清掃担当者まで日本薬局方の知識や改定時の教育をしているが、これは法令が本来要求しているレベルを大きく上回った「過剰な対応」と推測される。この教育方式の採用は、その工場の経営陣が「過剰な対応」であることを承知の上で行った「政治的」な判断であろう。つまり、行政指摘の対応の一環として、信頼回復のために決定された処置であろう。換言すれば、「義務」的な対応を最優先した結果と推測される。GMP教育訓練の趣旨からいえば、本来は「期待」の項が最も大きな比率を占めることが望まれる。しかし現実の問題としては、「受講者の積極性」という課題が、GMP教育訓練に関わる問題のかなり大きな部分を占めている。
 「受講者の積極性」という問題は、受講者の性格、能力および知識という面以外に、その企業の企業風土、品質文化そして所属する職場の士気に大きく影響を受ける。この「企業風土・品質文化・職場士気」を高めるのは、経営陣の主たる責任と考えられる。このことは、経営側にある人々が忘れがちな重要な要素である。この連載の第1回で記載したように、ドラッカーによれば、経営者は「従業員に “夢” や “希望” を与え続ける」必要がある。これは企業の活性化を維持し、従業員が高い士気を持ち続ける上での前提条件である。"

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執筆者について

葛城 知子・小暮 慶明

経歴 筆者らは教育訓練とは何かについて、長年にわたり研鑽を積んできた。今回、その内容の一部を、テーマごとに簡潔にまとめてみた。 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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