新しいGMP教育訓練像を求めて【第2回】

"はじめに
 経済のグローバル化の波が身近まで押し寄せている今日では、社内GMP文書の英訳を命じられた人は多いと思われる。そのような時に「GMP教育訓練」の用語を英訳するのに、戸惑った経験を持つ人は多いであろう。GMP教育訓練に相当する訳語は、“GMP Training”とするのが一般的である。しかし“Training”という単語は、日本語の「教育」という意味を含んでいない。
 それでは、日本におけるGMPの「教育訓練」の実施内容は、欧米の“Training”の内容と異なるのであろうか。このことへの妥当な回答は「教育訓練プログラムの実施内容は殆ど同じであるが、その基本的理念が異なる」というものであろう。日本は題名に「教育」の文字を入れている思いは、日本のGMP教育訓練の理念の現れのように思われる。実は、「教育・訓練」の理念的側面は、かなりその国の文化的な影響を大きく受けるものである。今回はこの問題を掘り下げることによって、GMP教育訓練の根底にある考え方を探って行きたい。
 
1.GMP省令にみるGMP教育訓練の基本的理念
 日本におけるGMP教育訓練の規定は、GMP省令の第19条に規定されている。ここでは運営面のことが書かれている。注目すべきは、施行規則(薬食監麻発0830第1号 平成25年8月30日)の第19条関係の(4)の次の記載である:「第1項第1号の「教育訓練」とは、理論的教育と実地訓練からなるものであること」(注および図1)。この記載から、教育は「理論的な知識を学ばせる」ことであり、訓練は「実地に行うこと」の法意であると読み取れる。しかし施行規則の次の項の(5)に記載される具体的な教育訓練の内容からは、ここでいう“理論的”とは「担当する作業の基礎となる実践的知識」であり、学問的(アカデミック)な知識ではないことが推測出来る。
 英語の“education”は、学校教育の意味合いが大きいと言われる。このことは後で「訓練」との対比で検討するとして、もう少し日本語の「教育」という意味を考えてみたい。教育とは「教え、はぐくむ(育む)こと」である。「教育」の用語は、恐らくは幕末から明治維新の頃に、西欧諸国の新たな概念に対応させた造語であろう。当時は、従来の日本語で表現出来ない西洋の用語に対して、新たな造語が沢山生み出された(注2)。本来であれば「GMP訓練」とすれば足りるところを、あえて「教育」の2文字を入れたことの意味を考えるべきと思う。この点は、日本のGMP教育訓練の中に、「人を育てる」という基本思想の存在を明示するものであろう。


図1 GMP教育訓練の2つの要素

 日本の医薬品GMPは、その導入にあたってWHOのGMPを参考としたが、経済的には米国のCGMP(Current Good Manufacturing Practice)の影響を大きく受けて発展した。その流れの中で、日本の伝統的な人材育成の考え方が教育訓練に取り込まれていた。しかし、グローバル化による企業環境の変化、短期間非正規社員の増加、そして人材の流動化の現在の波の中で、日本のGMP教育の「育む」という考え方と、その方法論が大きな転換点を迎えているのが現在の状況である。
 なお、後述のように「GMP教育訓練」における理論と実践という2つの要素は、少なくても三極のGMPに共通してみられるグローバルな考え方といえる。


2.米国のCGMP規則にみる訓練の基本的理念
 日本の戦後(1945年以降)の医薬品産業の発展過程では、米国の影響が大きかった。米国のCGMP規則は、日本の医薬品産業にとっては、海外のGMPのあり方を示す教科書的存在であった。このCGMPの「GMP教育訓練」は、どのように書かれているだろうか(注3)。
CGMPの§211.25 Personnel qualificationsは、GMP教育訓練に関わる規定を述べている。まずは“qualifications”(適格性の評価/確認)という用語に注目すべきであろう。その(a)項の文頭は、次のように述べられている。:
“Each person engaged in the manufacture, processing, packing, or holding of a drug product shall have education, training, and experience, or any combination thereof, to enable that person to perform the assigned functions.”
(医薬品の製造、加工、包装、または保管に従事するそれぞれの職員は、その割り当てられた機能を果たすことができるように、教育訓練経験または、それらの組合せを受けていること。)
つまり、作業者の適格性は「教育、訓練、そして経験」の3つの要素を持つとしている(図2)。日本のGMP教育訓練の基本要素には「経験」はないが、これは実務を通して形成されると考えているのであろう。CGMP規則のこの項のタイトルがPersonnel qualifications(職員の適格性)となっているのは、GMP教育訓練以外のことにも言及しているからである。


図2 職員の適格性の3つの要素
 
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