いまさら人には聞けない!微生物のお話【第44回】
21. 教育訓練
微生物試験は医療機器や製薬企業以外にも化粧品や食品会社においても実施されています。個別の試験テクニックや対象とする微生物には違いはありますが、取り扱う際の基本は同じです。いずれにしましても、安全かつ信頼性の高い微生物試験を行うには、きちんとした教育訓練(トレーニング)が必須です。
それぞれの会社、事業所における手順書の理解や試験操作の習得に関しては、OJTによる教育訓練が中心になると思いますが、新たに微生物ラボを立ち上げた場合や社内に適当なトレーナーがいない場合は、外部のトレーニングコースを利用することも可能です。Webで「微生物トレーニング」などのキーワードを入れて検索すると、多くの教育訓練コースがヒットします。こういった外部のトレーニングも有益ですので、必要に応じて実習を含むこれらの研修に参加されることも検討されることをお勧めします。
【参考情報】 微生物試験に関連する “Tips”
以下では、テクニックというほどのものではありませんが、効率的に微生物試験を進める上で参考になるかもしれないちょっとしたヒントを紹介します。
多くの微生物試験は、作業員が手作業で試験を進めますので、それぞれ個人の体格や利き手で、椅子の高さやバーナーの置き位置などが変わってきます。これら以外にも、ちょっとした工夫で、微生物試験をより効率的に進めることができます。
この項では、筆者の個人的な経験より「こうすると楽かもしれない」というものを紹介します。これらは決して標準的なやり方という訳ではなく、また微生物試験の参考書に載るようなものでもありません。もちろん強要するものではありません。当然ですが、人によってはまったく別のやり方をしていることもあります。現在担当されている微生物試験をもう少しだけ工夫したい、と思われている方の参考になれば幸いです。
日本薬局方の微生物限度試験法では、カンテン平板混釈法として、次の記載があります。
「直径9cmのペトリ皿を使用する場合、(中略)調製した試料を1mL分注する。これにあらかじめ45℃以下に保温した15~20mLのソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン培地又はサブロー・ブドウ糖カンテン培地で混和する。(中略)微生物ごとに少なくとも2枚のペトリ皿を用いる。(中略)培地ごとに菌数の算術平均をとり、集落数を算出する。」
上述の通り、寒天培地はオートクレーブ滅菌した後程よい温度(液体であり、かつ微生物が死滅しない温度)に保持します。寒天はおよそ85℃以上で融解し、45℃以下で固まるという性質を持っています。そのためこの混釈法は、迅速に行わないと、寒天培地をシャーレに注いでいる間に培地がだんだん固まってきてしまいます。これを要領よく行うためのヒントを以下に紹介します。
a) 培地の調製
混釈培養に使用する寒天培地は、図9にあるように三角フラスコなどで滅菌しますが、この場合の筆者のお勧めは三角フラスコではなく、平底フラスコです。
寒天培地をフラスコに入れてオートクレーブをかけると、滅菌後、寒天が下に沈んでいます。このまま使用すると、はじめのうちはほとんど寒天を含まない培地が出てきてしまいます。そこで寒天を培地内に均一に分散させるために、オートクレーブ後に培地を撹拌する必要があります。
寒天を均一にするために溶解状態でフラスコを撹拌しますが、その際十分に温度が下がっていないと、培地が突沸します。突沸しない程度の温度でフラスコを振ると、培地の表面に気泡が生じ、それをそのまま分注固化させると、シャーレ上で泡が固まり、コロニーが見にくくなります。あらかじめ培地に撹拌子を入れて滅菌を行い、滅菌後にスターラーでゆるやかに撹拌することもできますが、分注操作の最後の方でフラスコを傾けたときに、撹拌子がシャーレに落下してしまうことがあります。フラスコの外側から磁石で撹拌子を保持しながら注ぐこともできますが面倒です。
ではどうするか?手っ取り早いのは、培地を平底フラスコで調製し、滅菌後に撹拌と温度調整を兼ねて、ステンレスビーカーの中で水道水を軽く掛けながらクルクル回すことです。こうすることで、培地を泡立てず、容易に適温まで下げることができます。適温は上記のようにおよそ45℃です。これは「熱いが素手で何とか持つことができる程度」と思ってください。
ちなみに1Lの平底フラスコは、2L容のステンレスビーカーにちょうど収まります。そして1Lの培地で、50~60枚ほどの平板ができます。そしてこれは(うまく並べれば)160cm幅のクリーンベンチの作業台全面にちょうど収まる程度の枚数です。
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