いまさら人には聞けない!微生物のお話【第2回】

2021/10/01 その他

微生物学の歴史について説明をする。

第一部 微生物の基礎編

 

1.    微生物とは
2.    微生物学の歴史
3.    細菌とは?
4.    ウイルスとは?
5.    真菌とは?
6.    微生物はどこにいるか?
7.    無菌とは
8.    空気がなくても生きられる微生物
9.    腐敗とは
 


2.  微生物学の歴史

微生物は人類が地球上に現れるはるか以前から存在していました。当然、私たちのご先祖様は微生物とともに暮らしていました。太古の昔より疫病や腐敗など微生物に起因する現象はよく知られていました。酒も紀元前数千年の昔から知られていたようです。しかし微生物は肉眼では見えないため、当時はこれらが自分たちと同様な生物の働きによるものという認識はありませんでした。
1個1個の微生物をそれぞれ単独の生き物として観察したのは、オランダのレーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek)と言われています。彼は1674年に手製の顕微鏡を使って歴史上はじめて微生物を観察しました。この時に彼が使った顕微鏡の倍率は約200倍程度とされています。200倍では、細菌を観察するには少々厳しいと思いますが、彼は人一倍目がよかったのかもしれませんね。
顕微鏡の発明により、自然界には目に見えないような小さな「何か」がいる、ということが認識されるようになりました。それでも当時は単に珍しいものが見えるといった程度でしかなく、それが病気を引き起こしたり、食物を腐らせたり、あるいはヨーグルトや酒をつくる元になっていることは、全く認識されませんでした。実際ほんの160年ほど前までは、昆虫やカエル、さらにネズミなどは下等な生き物とされ、温度やエサなどの条件が整っていれば、自然に発生するもの(湧いて出てくる)と信じられていました。

フランスのパストゥール(Louis Pasteur)は、1861年に「空気中の微生物について:自然発生説の検討」を発表し、旧来の自然発生説を否定しました。 そこから学問としての微生物学が発展してきました。(Pasteur, L. Memoire sur les corpuscles organises qui existent dans l’atmosphere. Examen de la doctrine des generations spontanees. Annales des sciences naturelles, 4th series, Vol 16, 5-98.)
19世紀中旬のパストゥールによる自然発生説の否定以降、病気と微生物の関係について多くの研究がなされ、今でいう感染症の理解が深まりました。ドイツの コッホ(Heinrich Hermann Robert Koch)は、炭疽菌、結核菌、コレラ菌を発見しました。またそれ以前にはできなかった細菌の純粋分離法を確立しています。コッホの提唱した感染症の病原体を証明するための基本指針である「コッホの4原則」注)は、現在もなお有用です。
注)コッホの4原則
 ①    ある一定の病気には一定の微生物が見出されること
 ②    その微生物を分離できること
 ③    分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
 ④    そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること

(Wikipediaより引用)

(Koch, Robert. Zur Unterusuchung von pathogenen Organismen. 1881. Mittheilungen aus dem Kaiserlichen Gesundheitsante, Vol.1. 1-48)

パスツールはさらに1879年にニワトリコレラワクチンを、次いで1881年には炭疽菌ワクチンを開発し、科学的なワクチン製造法を確立しました。(Wikipedia)

この時期、日本の微生物学者も多くの成果を上げています。北里柴三郎(破傷風菌の純粋培養 1889年、血清療法の開発 1890年)やその弟子の志賀潔(赤痢菌の発見 1897年)などが有名です。

その後19世紀末にロシアのイワノフスキー(Dmitri Iosifovich Ivanovsky)がウイルスを発見し、細菌より小さい病原体が存在することを明らかしました。
20世紀に入り、イギリスのフレミング(Alexander Fleming)が1928年にペニシリンを発見、そして1946年にはアメリカのワックスマン(Selman Abraham Waksman)がストレプトマイシンを発見し、抗生物質の時代が始まりました。その後続々と抗生物質が発見され、抗生物質による感染症治療のおかげで、人類の平均寿命に大きな進展をもたらしています。

その後1979年にイギリスのサンガー(Frederick Sanger)がDNAの塩基配列の決定法を考案し、それ以降微生物学はバイオテクノロジーの進展と共に発展してきています。


 

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執筆者について

古谷 辰雄

経歴

株式会社シーエムプラス GMP Platform シニアコンサルタント
ジョンソン・エンド・ジョンソン、クリエートメディック、ボストン・サイエンティフックにて、滅菌管理、微生物管理、品質保証業務を経験した後、2013年に(株)シーエムプラス入社。
医療機器メーカー在籍当時、エチレンオキサイド滅菌のスペシャリストとして厚生科学研究班、各種滅菌関連委員会に参画。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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コメント

小野 真太郎 / 2025/01/29

大変興味深く拝読させてもらっています。知識の伝達だけでなく、いかに先人が苦労したか、また(今から思えばですが)こんなこともわかっていなかったのか!という驚きに満ちていました。それも、古谷先生の興味をそそらずにはいられない巧みな表現方法によって、学習するのが楽しみになります。ありがとうございます。

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