新技術最前線 新薬開発を目指す人へ【第4回】
リアルタイムPCRプラットフォーム移行における比較試験のモデル研究
はじめに
比較試験は既存のプロトコールや装置に変更があった場合の必須要件です。ブリッジング試験とも呼ばれる、このような試験の目的は、何らかの変更が以前に承認されたプロセスに悪影響を与えないという分析的な証拠を提供することです。ここでは、リアルタイムPCRアッセイのプラットフォーム変更を行う際に、新旧プラットフォームが同等であることを示すための証拠を提供することを目的とした、ブリッジング試験のモデルを示します。
1.実験デザイン
この比較試験は、リアルタイムPCRアッセイを、あるシステムから別のシステムに移行するラボが実施する必要がある、以下の特性を比較するよう設計しました: 特異性 (Specificity)、直線性 (Linearity)、範囲 (Range)、真度 (Accuracy)、精度 (Precision)、検出限界(LOD: Limit of Detection)、定量限界(LOQ: Limit of Quantification)、頑健性 (Robustness)、およびシステム適合性 (System Suitability)。本試験では、Zika, Dengue, Chikungunya (ZDC)リアルタイムPCRアッセイ(Ma et al. 2019)とReliance One-Step Multiplex RT-qPCR Supermix (Bio-Rad Labratories, Cat# 12010220)を用いて、3台のCFX96 TouchリアルタイムPCR解析システム(Bio-Rad Labratories, Cat# 1855196J1)と、3台のCFX Opus 96リアルタイムPCRシステム (Bio-Rad Labratories, Cat# 12011319J1)を比較しました。3日間にわたって、合計9つの独立した検量線を作製しました。各検量線を用いてレプリケートプレートを準備し、それらをCFX96 Touchシステム1台とCFX Opus 96システム1台でランしました。これらの試験は、それぞれのCFX96 Touchシステムが、各日毎に異なるCFX Opus 96システムとペアになるように実施されました。
事前に設定したデータの判定基準は以下の通りです。
- 増幅効率90%以上110%未満、および直線性(R2)≧0.99であること。これはKibbey (2017) の値 (直線性:R2≥0.98、傾き:-3.1と-3.8の間) よりもさらに厳しい基準です。(Kibbeyの若干緩い基準に対応する増幅効率範囲は約83%から110%となります。) 直線性と増幅効率の計算に最も薄い濃度を含めるためには、3回のレプリケートすべてにおいて標準偏差 (SD) が0.6未満でなければなりません。
- ノーテンプレートコントロール(NTC)の定量サイクル(以下、Cq)値が40以上であり、95%のレプリケート(3レプリケートの3回すべて)でLOD以上の検出があること。さらに、いずれかのNTCが陽性である場合も、Cq値はスタンダードの最も低い濃度のCq値以下であってはならない。スタンダードの最も低い濃度のCq値は39を超えてはならない。
これらの基準を組み合わせることで、ZDCアッセイのシステム適合性も定義されます。
2.結果と考察
最初の試験として、ZDCアッセイに付属のポジティブコントロールRNAの希釈系列を調製し、両方のリアルタイムPCRシステム上で複製プレートのランを行いました。各反応には一定濃度の内部ポジティブコントロールRNAとヒトgDNAを添加しました。図1はその結果を示しており、この比較試験の基礎となるアッセイの視覚的なガイドとしての役割を果たしています。3種のポジティブコントロールRNAはやや異なる開始量で存在し、結果として2つのターゲット(ZKVとCHK)は6点の検量線を示し、3つ目のターゲット(DV)は5点の検量線を示しました。
図1 (A) CFX96 Touch システムおよび (B) CFX Opus 96システムを用いた 5 ターゲットマルチプレックス検出結果 Reliance One-Step Multiplex Supermixを用いて、ZDC Multiplex RT-PCRアッセイを行った。ZKV (■ FAM)、CHK (▲ HEX) 、DV (● Texax Red) のRNAについては直線性が示された。一方、インターナルポジティブコントロール (IPC) の合成RNAテンプレート (● Cy5) およびgDNA (◆ Cy5.5, RNaseP) は一定値を示した。ここでの結果は、各プラットフォーム上での1回の実行を表すものであり、実験デザインを表現する目的で示した。 Cq: 定量サイクル
特異性の判定基準は、NTCのCq値が40以下になってはならないというものでした。この基準は、CFX96 Touchシステム(0/27)とCFX Opus 96システム(0/27)の両方で達成されました。頑健性は、すべての反応に少量のヒトgDNAを含めることで実証されました。
ZKV、CHK、およびDV検出アッセイにおける、直線性、増幅効率、範囲、LOQ、およびLODに関する結果を表1にまとめました。特に、範囲、LOQ、LODは両プラットフォームで同等であると判断されました。3つのアッセイの直線性と増幅効率は許容範囲内であり、両プラットフォームでほぼ同等と判断されました。
表 1 CFX96 TouchシステムとCFX Opus 96システムの直線性、増幅効率、LOQ、LODのサマリー
我々は、精度を調べるために数日間に渡って試験を実施し、併行精度を調べるために各日に各プラットフォームの3つのシステムの試験を実施し、その結果を表2に示しました。室内再現精度(Intermediate Precision)は、複数日にわたる試験、毎日3つの独立した検量線を作成すること(ユーザー間のばらつきをシミュレートするため)、試験に用いる各システム3台すべてを使用することをもって、この研究に組み込まれています。
表2 1回の入力から計算したCFX Opus 96システムおよびCFX96 Touchシステムの精度。各CFXリアルタイムPCRシステムについて、N = 27(3台の個別ユニット×3日間×3回の観察)の測定を行った。
相対バイアスとして表現される両CFXプラットフォームの真度は、既知のコピー数(Droplet Digital PCRにより定量)の対象物を検量線に対して測定することによって決定されました。試験範囲における平均バイアスは、CFX Opus 96システムでは6.3%、CFX96 Touchシステムでは11.3%でした。図2にFAM、HEX、およびTexas Redチャンネルでの研究期間中のすべての測定値の回帰分析結果を示しました。結果として得られた傾きは95%信頼区間 (95% CI) 内にあり、両プラットフォームが同等であるという仮説が許容できることを示しています。全体として見ると、ここに示されたデータもまた、両プラットフォーム上での本アッセイの適合性を支持しています。
図2 全チャンネルの測定値のDeming回帰分析結果 A, FAMチャンネル:傾き= 0.9988 (95%CI: 0.9800 to 1.018) ; B, HEXチャンネル: 傾き= 1.000 (95% CI: 0.9923 to 1.008) ; C, Texas Redチャンネル: 傾き= 0.9981 (95% CI: 0.9699 to 1.026) 。各プラットフォームの3台のシステム上で3日間にわたって行った、独立したラン9回のトリプリケート測定の結果を分析した。Cq: 定量サイクル
おわりに
本稿では、CFX96 TouchシステムからCFX Opus 96システムへの置き換え、またはシステムの補完を希望するラボのためのガイドとして、比較試験を実施しました。USPおよびICHガイドラインに記載されている性能特性の評価によって、装置の比較可能性を検討しました。ブリッジング試験の結果、2つのqPCRプラットフォーム間の同等性が実証されました。この研究は、必要に応じて追加の特性に対応した修正を加えることができる、モデル研究として参照することができます。
本稿は、Bio-Rad Labratories Bulletin 7444 (英語)からの抜粋となります。より詳しいデータや実験方法、また日本語訳をご希望の際は、下記連絡先までご連絡いただければ送付いたします。
本記事に掲載の製品は研究用であり、診断目的にはご使用いただけません。
参考文献
Food and Drug Administration (FDA) Office of Regulatory Affairs (2020). Document ORA-LAB.5.4.5: Methods, Method Verification and Validation, Laboratory Manual Volume II. fda.gov/media/73920/download, accessed February 5, 2021.
GurtlerC et al. (2018). Transferring a quantitative molecular diagnostic test to multiple real-time quantitative PCR platforms. J Mol Diagn 20, 398-414.
International Conference on Harmonisation (2005). Q2(R1) Validation of Analytical Procedures: Text and Methodology.
KibbeyMC (2017). USP General Chapters and Reference Standards that Support the Development and Characterization of Biologics. BioPharmIntl. cdn.sanity.io/files/0vv8moc6/biopharn/567a2675cb84cf642712d04e99d5ddf20eb55334.pdf, accessed February 5, 2021.
Ma J et al. (2019). Sensitive codetection of viral-pathogen RNA and DNA using one-step multiplex RT-qPCR. Bio-Rad Bulletin 7196.
United States Pharmacopeial Convention. (2005, updated 2017). U.S. Pharmacopeia <1225> Validation of Compendial Methods. uspbpep.com/usp29/v29240/usp29nf24s0_c1225.html, accessed February 5, 2021.
コーディネータープロフィール
小出 哲司
理科研株式会社 戦略営業部 部長
2002年に理研ベンチャー、
株式会社インプランタイノベーションズ取締役を歴任。
2007年より理科研株式会社に入社。2013年より戦略営業部の部長に就任。新規事業開発及び、企業戦略を立案実行。2017年4月より取締役執行役員に就任し現職。顧客の企業価値を高めるための事業推進ドライバーの創出を一貫して推進している。
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著者プロフィール
小川 智央
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TEL: 03-6361-7001-
E-MAIL: life_mkt_jp@bio-rad.com
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