ゼロベースからの化粧品の品質管理【第10回】

2021/06/18 化粧品

逸脱管理と変更管理の重要性。

小林化工(株)の市場回収問題を考える

(出典:小林化工 特別調査委員会 調査結果報告書:https://www.kobayashikako.co.jp/contact/survey_report.php

 化粧品の品質保証体制構築について考える時、逸脱管理と変更管理が最重要であると考え、前回まで優先的にお話させて頂きました。特に、医薬品等私たちが生産する製品は直接人に係る製品であることから、製造が指図通りに適切に行われること、試験が適切に行われ規格に適合していること、それを記録し確認することが特に重要になります。その過程の中で、通常の状態や従来の状態と異なることが確認された場合には、品質リスクを評価し、適切に処理することが必須になります。このことについて、第8回と第9回で逸脱管理と変更管理として管理のポイントをお伝えしました。
 今回、本来は手順書の作成の次のテーマについて説明させて頂く予定でしたが、医薬品で起きた原料の添加間違いの小林化工(株)の事故の報告書を確認したところ、潜在的にはどこの企業でも同じような芽は認められる事項であること、この事項を掘り下げることにより多くの学ぶべき点があることから、次の手順書作成のテーマに移る前にこの事故の内容について一緒に確認したいと思います。

1.    事故の概要
2020年12月4日、水虫薬であるイトラコナーゾール錠50㎎に睡眠薬であるリルマザホン塩酸塩水和物が混入し、多数の健康被害が発生した。

(組織面での不備の状況):直接原因ではないものの仕組みの問題点です。


1)    薬事申請書は研究開発本部薬事分析部が作成し、信頼性保証部薬制部が確認した後、申請された。承認された申請書は、製造管理部で製品標準書が作成、この書類の中に承認事項と製造手順書等が記載されており、承認書との矛盾はないものの、実際の製造はこの承認内容と異なる『現場フロー』に基づき行われていた。
⇒後述する使えない製品標準書と発行のタイミングの遅れ。薬事は薬事、現場は現場と独立した運営。双方のコミュニケーションの仕組みがどうなっていたのか?但し、よくあることでは?


2)    正規の文書である製造指図・記録書はハンディーターミナル入力のため現場に携行されていたが、製造に際しては参照されることはなかった。
⇒最近バーコードによる管理は普及していますが、使う人の立場に立ったIT化であること、運用面のフォローの仕組みがないと旨くいきませんね?特に、現場の人が楽になることがないと保証の充実と言っても定着しません。一方で、決められたITを使わない時に起きる可能性のある事故について、その怖さが身に沁みていれば、ITの使用は徹底します。


3)    秤量作業において秤量器には印字機能があるが、指定された量の秤量時に先ず印字し、その後、追加分を秤量して秤量作業を終えていた。その後、秤取量と秤量記録が同一となるよう分銅を秤量機に載せて量ることで秤量記録を作成していた。また、秤量記録を確認する担当者がいるが、秤量記録と製造指図・記録書の指定量と異なっていた場合には分銅を使って秤量記録を作り直していた。
⇒外部の体裁を整える行動はISO9001の認証維持、GMP査察でも常態化し易い事項です。やはり、本来のあるべき姿がなぜ守られないのか?守らない場合の怖さを認識することが必要ですね?加えて、作業を行うのではなく、モノを作る仕事をする意識がどこまで行き渡っているのかが重要ですね?


4)    製造記録は原則として有効期間に1年を加算した期間の保管が求められているが、実態が反映された現場フローは破棄され、実態でない製造指図・記録書のみの保管で実態の状況判断が困難であった。
⇒メモ書きを含めて全てデータであること、エビデンスとしては生のデータが最も重要であることの認識が必要です。これは、上の立場になればなるほど実態を知りたい意識が高いはずです。しかしながら、ミスは強く責められることから、上司は体裁を整えることを優先し、平穏に全て整える風土があったかもしれません。この事項は、本当の意味で責任を問われる仕事をしてきていない方が、事なかれ主義で旨くいくことで優秀と評価され仕事を進めてこられたのかもしれません。

2ページ中 1ページ目

執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

53件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年5月30日(金)10:00-16:30

バイオ医薬品の開発とCMC戦略

2025年6月16日(月)10:30-16:30~2025年6月17日(火)10:30-16:30

門外漢のためのGMP超入門

2025年9月10日 (水) ~ 9月12日 (金)

GMP Auditor育成プログラム第20期

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます