ゼロベースからの化粧品の品質管理【第3回】

2020/11/20 化粧品

 化粧品の品質とは何か?という大枠の考え方について第二回で説明させて頂きました。更に、化粧品においてGMP体制を整備する手段として、日本化粧品工業連合会作成23のモデル手順書を活用する方法を提案させて頂きました。
 今回は、現場の方の立場に立った実践的な手順を作るプロセスについて、私見になりますが説明させて頂きます。

 毎回本題に入る前の脱線で恐縮ですが、医薬品系の方が化粧品製造所を監査される場合に、誤解されていると感じている事項について説明させて頂きます。この事項は化粧品製造所を運営する立場からはすごく重要な事項で、手順書の作成や管理体制に影響が大きく、各要件への過剰な要求に頭を悩まされている方が多い事項でもあります。
 前回、化粧品における品質の理解が重要であることを述べましたが、結論としては、“化粧品とは何か”、“化粧品はどのように使われ”“どのような事項でお客さま満足を実現させることを目指しているのか”を理解することが重要で、その上で医薬品において運用されている良い面を要求すること、理解した上で品質を確保、維持する体制や仕組みについて品質リスクを感じたならば改善を求めることが必要であると考えます。
 それでは、特に気になっている2項目について説明致します。
 ① 化粧品の製造工程に関しては『所定の特性を満たす最終製品を生産するように措置を講じること。』が求められていますが、医薬品のように製造工程に対してバリデーションまでの根拠は求められていない。
 ⇒ 化粧品では、製造量や使用する製造設備が変動しても求める製品の品質を保証できることの根拠があれば問題ありません。安全、安心の製品が求められていることは同じですが、極端に言えば、ロットにより違った工程が選定されても求める品質を満たせば問題ありません。
 例えば、乳化製品においてライン上でホモ処理しても、バッチによるホモ処理で工程を組んだとしても、更に、処理回転数や処理時間の様子を見ながら求める工程であっても乳化粒子や粘度が同じものが得られるのであれば可能です。実態は、乳化粒子の分布の範囲や均一さを確保することはなかなか難しく、スケールアップ技術や経験に基づく生産技術が必要ではありますが・・・。

 つまり、HACCPで言うCCP(重要管理点)を適格に捉える、乳液では乳化温度と求める乳化粒子(分布、大きさ)の特定とその管理体制が整っていれば問題ありません。査察等を行う場合には、この概念が明確になっていること、この管理体制が出来ていることが重要であって、行程が一定でないことの実態に拘って標準化を求めることに注力することには疑問を持ちます。なぜならば、原料を含めてバラツク要素に対して制御できない因子であることが多く、処理時間が違う対応を都度行うことで(原料ロットにより分子量分布がバラツクこと等)、求める乳化粒子と粘度や使用性が得られる工程ならば問題ないと判断して良いと考えるからです。
 従って、GMPの監査において、工程条件の妥当性の根拠を最重要視するのではなく、管理すべきCCPの特定と、適切なモニタリング体制が確立されていることの確認の方が重要と考えます。言ってみればフレキシブルな対応を取っている≠標準化が出来ていないとの認識は間違っていると考えます。GMPの要件である“何時、誰がやっても同じ品質である”との解釈は医薬品よりもかなり広げて考えて判断すべきと考えます。

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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