ゼロベースからの化粧品の品質管理【第5回】

2021/01/22 化粧品

 前回は、化粧品の品質とは何か?について、化粧品は官能的な要素も大きいことを中心に説明しました。今回は、化粧品の品質保証を確保するための製造所における体制について説明致します。論点は、書物に書かれている論点とは一線を画することはご了承下さい。
 皆さんご存じの通り、化粧品製造所において品質保証体制が整っていると言うためには、化粧品GMPの要求事項を満たすシステムであることが必須です。しかしながら、実態は、化粧品GMPに関する手順書があるものの、実際の業務は手順書と結び付いていなかったり、そもそも手順書があっても5W1Hにより具体的に何をしなければならないのかが分かるように書かれていないため、実際に仕事をどう進めるのかがイメージ出来ないケースがあります。これでは、化粧品GMP体制で運用されているとは言えません。更に、医薬品のようにGMPの適合審査が行政によって行われないため、GMP管理体制のレベルも様々で、手順書がアクションプランになっていなくても放置されているのが実態ではないでしょうか?
 また、化粧品GMPの他にも品質保証の仕組みとして、多くの企業ではISO9001の品質マネジメントシステムの認証を得ていますが、その実態も維持審査に追われ、一部の人たちの業務負荷となっているだけで、製造所として顧客満足に繋がったり、結果として売上向上や利益率の向上に結び付いていないのが実態ではないでしょうか?
 それでは、なぜISO22716(化粧品GMP)やISO9001の品質保証体制の仕組み・システムが導入されていても品質保証の充実に結び付いていないのでしょうか?
 化粧品を日本で製造を行っている各製造所は、化粧品GMP(ISO22716)に基づいてモノづくりが行われているハズです。ところが、各種手順書はあってもGMPのPDCAが回っておらず、医薬部外品においてもPIC/Sによる逸脱管理が十分機能していないため、トラブルが再発しているケースが多いのではないでしょうか?それでは、なぜGMPの手順書類があるものの形骸化し、有効に機能していないのでしょうか?今回は、機能しない原因と充実した体制を作るためにはどうしたら良いかについてお話します。

1.    ISO22716の形骸化、本来のGMP体制とPDCAが回らない原因
1)要求事項が求める内容を理解していない
 私が見せて頂いた企業の手順書でよく見られたのは、GMPの条文をそのままコピペして体裁を整えた、つまり、日本化粧品工業連合会の手順書の雛形をコピペしただけの手順書でした。また、ISO9001の手順書で要求事項の順番で要求事項の文言を嵌め込んでいくことが正論と考えて運用されてきた企業では、GMPの手順書は雛形を元に自社の運用方法に展開して記載すべきであることの認識がなく、ISO22716に対しても同じプロセスでコピペして手順書が作られていました。手順書としては不十分であると指摘しても、何が間違っているのかが分からないといったケースもありました。最近はインターネットで様々な情報が溢れており、実に厄介です。本来は、要求事項に対して手順書の雛形を各製造所の実態に合わせて5W1Hで具体的に記述して、使える手順書にすべきです。しかしながら、導入時のISO9001の手順書を作られた中堅の管理職の方の中には ISO9001の手順書のように、形式があっていれば問題ないと捉えている方がおられました。一方、小さな組織の製造所にも関わらずインターネットに載っていた医薬品の手順書をそのまま引用し、組織の大きさに合わせてもう少しコンパクトにしたらどうかの提言をしても、インターネットの事例に対して変更することに難色を示した若い方もおられました。
事例)
(衛生管理手順書)(雛形)衛生管理の責任者を複数設けても良い。
⇒これだけでは、この製造所がどのように衛生管理を行っていくのか、管理責任者はだれが任命、だれが責任者として機能するのか、どのような体制で行うのか判りませんね?
(記載例)当社では製造管理部門と品質管理部門にそれぞれ、製造管理責任者、品質管理責任者をそれぞれの衛生管理責任として任命し、・・・。

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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