治験用医薬品原薬の製造【第3回】-治験用原薬の製造-

2014/12/22 品質システム

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1. 治験用原薬の製造
 
 商業生産であっても治験薬の製造であっても、製造プロセスの構造は全く同じである。どのような製造プロセスであっても、「原料・設備・作業者・製法」を指定することによって一義的に定義することができる。すなわち、構成要素である「原料・設備・作業者・製法」を指定することにより当該製造プロセスのアウトプットである製品の品質が決まる。


図1 医薬品品質の四要素

これらプロセスの構成要素のうち「設備」に関しては、製造を支援するシステム(空調や製造用水供給システム等)を含めて、商業生産と治験薬製造に全く差はなく同じレベルで管理されている必要がある。また、「原料」の取り扱いについても、商業生産と治験薬製造の間に大きな違いはなく、ほぼ同じ考え方で管理すれば良い。しかし、「製法」に関しては、完成度という点で商業生産の場合に比べ治験薬製造の場合は明らかに未熟である。
 
 
 既製品の場合は、バリデートされた製法が存在し設計品質が確定しているのに対し、治験薬の場合は、いわば製法変更の連続であり、設計品質が確定していない。従って、治験原薬の製造に際しては、その製法がバリデートされていない限り、製造品質の管理と設計品質の管理を常に、同時に、実行する必要がある。
 
 
 治験用原薬を製造するために、バイオバッチの品質試験の結果とそれまでに蓄積された実験データに基づいて、暫定的な規格を設定する。但し、バイオバッチの実績品質が、治験の安全性を保証する唯一の根拠となるわけであるから、以降に製造した製品の品質が、たとえ暫定規格内にあろうとも、バイオバッチの品質より劣っていれば、治験用に用いるためには何らかの合理的な説明が必要である。「新規不純物のレベルが0.1%以下なら問題ないか?」 という議論は、科学的な根拠無しに、神ならぬ人間には判定できるはずもなく、無意味と考えるべきである。
 
 
 品質に対する影響がたとえ0.1%以下の未知の不純物の出現であっても、また出現した不純物が何らかの再処理によって見かけ上除去できたとしても、異常の原因が不明の場合は、そのロットは不適として、治験用に使うのは避けるべきであろう。ともかく異常の原因は最大限の努力を払って究明すべきである。また、その異常が将来にわたって頻繁に起こりうる可能性があるとしたら、工程の改良など根本的な対策を講じる必要があり、最悪の場合は、安全性試験に立ち戻るなど、全体の開発計画を見直す必要もある。
 
 
 いかに製法変更が頻繁であっても、治験の安全性・正確性を確保するためには、治験期間を通じて品質一貫性を保証する必要があり、治験期間での変更管理が特に重要である。治験薬の製造には、予期しない逸脱や異常が発生する危険があり、製造中に得られる貴重な情報を細大漏らさず収集するために、製法開発者自ら製造に立ち会うなどの工夫が必要となる。また、特に「作業者」に関しては、作業内容についての十分な教育が必要となる。
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執筆者について

中尾 明夫

経歴

株式会社シーエムプラス フェロー。
GMP Platform責任者。
1976年田辺製薬(株)入社。有機合成化学研究、プロセス化学(工業化)研究に従事後、品質保証部長、取締役生産本部長、常務取締役経営企画部長を歴任、合併後、田辺三菱製薬(株)常務執行役員製薬本部長。
FDA査察対応やPDA活動を通じ、「GMPはサイエンス」と確信。GMP教育の洗練化を目指す(株)シーエムプラスの企業理念に共感し、2011年(株)シーエムプラスに入社、2012年5月取締役副社長就任。2018年4月より現職。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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