治験用医薬品原薬の製造【第4回】-変更管理-

2015/01/26 品質システム

1. 変更管理
1.1. 設計品質の基準

 一般に化学反応は再現性の高いのが特徴であるが、原薬の結晶形・粒度分布や残存溶媒等の物理化学的な特性は、製造スケールに依存することが多く、小実験の結果が全く再現できない可能性があるので、小実験の結果を基準にし、製法や品質規格を設定することは避けるべきである。製造品質の一貫性や再現性を考慮すれば、少なくともパイロットスケールで製造したバッチを、バイオバッチとして安全性試験や製剤設計検討用に用い、設計品質の基準とするのが現実的である。

 本質的な原薬の品質の改善は、品質管理の徹底によってではなく、製法の改良によってのみ達成できることを考えれば、よりよい製法を開発することも企業の責任である。しかしながら、治験薬といえども、人命に関わる医薬品であることには違いなく、品質の一貫性を確保する必要があり、製法の安易な変更は許されない。これらの相反する要求を満たしつつ、工程を開発し治験薬を製造するためには、既製品の変更管理とは異なった発想での管理が必要である。

 バイオバッチを製造した製造手順に全く変更や改良がない場合には、バイオバッチの製造に用いた製造指図書をそのまま用いて製造することで問題はない。しかし、わずかでも変更がある場合はどのように対処すべきだろうか。いかに小さな変更や改良であっても、担当者が勝手に実施していいものではなく、その変更や改良を裏付けるデータが必要であり、全ての変更は健全に管理されている必要がある。しかしながら、全ての変更を一様に厳格に管理して、工程開発担当者の工程改良意欲を殺ぐような煩わしい変更管理システムを構築することは、医薬品の品質向上の機会を失うことになり、決して科学的に正しい態度とはいえない。製法を改良することによって、製造コストを低減し、よりよい品質の医薬品を供給することも、企業の重要な役割である。
製法変更を、煩雑な手続きから少しでも開放するために、その対処法によって、製品の品質特性に影響を与える可能性がないマイナーな変更と製品の品質に重大な影響を与える可能性のあるメジャーな変更に分類することを提案する。マイナーとメジャーを区別する定量的なものさしは存在しないが、次に示すリスク評価の結果が参考になるであろう。 

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執筆者について

中尾 明夫

経歴

株式会社シーエムプラス フェロー。
GMP Platform責任者。
1976年田辺製薬(株)入社。有機合成化学研究、プロセス化学(工業化)研究に従事後、品質保証部長、取締役生産本部長、常務取締役経営企画部長を歴任、合併後、田辺三菱製薬(株)常務執行役員製薬本部長。
FDA査察対応やPDA活動を通じ、「GMPはサイエンス」と確信。GMP教育の洗練化を目指す(株)シーエムプラスの企業理念に共感し、2011年(株)シーエムプラスに入社、2012年5月取締役副社長就任。2018年4月より現職。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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