ゼロベースからの化粧品の品質管理【第51回】

2024/12/27 化粧品

今回は、品質リスクアセスメントの視点からアプローチする方法について。

 

―GMP査察において注目すべき品質リスクに対する管理体制―

 化粧品業界において、製品の品質を保証するためには化粧品GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)の実施が不可欠です。このGMPの運用においては、ISO 22716の要求事項に対応することが基本となります。ISO 22716は、化粧品の製造過程における品質管理の指針を示しており、製品が安全かつ有効であることを確保するための枠組みを提供しています。
 GMPを適切に運用するためには、内部監査や外部委託先の監査を通じて継続的に課題を整理し、体制の充実化を図る必要があります。監査は、業務の実施状況を確認し、品質管理体制の強化や改善を促進する重要な手段です。特に、内部監査が実施される段階では、品質管理の全体的な仕組みを総合的に確認することが求められます。
 また、ISO 22716とISO 9001の違いを理解することも重要です。ISO 22716は化粧品製品の品質管理に特化した規格であり、製品の安全性や効果に直接関わる要素を中心に管理します。一方、ISO 9001は品質マネジメントシステム全般を対象とした規格であり、製品の品質だけでなく、企業全体の運営管理の向上を目指します。このため、両者の管理体制を効果的に融合させることが求められます。
 化粧品の品質管理において、品質リスクアセスメントは安全で有用性の高い化粧品を消費者に届けるために不可欠な要素です。リスクアセスメントは、製品の製造や使用における潜在的なリスクを特定し、そのリスクを低減または管理するための適切な対策を講じるプロセスです。このプロセスを適切に進めることにより、製品の安全性と有効性を確保できます。
 内部監査や委託先監査を行う場合、GMP体制が整うまでは全体の仕組みを総合的に確認することが必要です。GMP体制が一通り整った後には、変化点に伴うリスクに着目して内部環境や外部環境の変化に応じた監査を行うことも一つの方法です。しかし、品質リスクの観点から品質管理体制について見直すことは極めて重要です。
 今回は、内部監査や外部委託先の監査を行う際に、品質リスクアセスメントの視点からアプローチする方法について説明します。

1.査察の一般的なフローと主なチェックポイント
査察の基本フローとそのチェックポイントは次の通りです。
① 文書管理システムのチェック
・標準作業手順書、バッチ記録、製造記録、品質管理記録などの文書が適切に管理されていることを確認します。
・日付の記載漏れ等に目が行きがちですが、本来の目的であるトレーサビリティが確保されていること、例えば、工程における撹拌処理ならば撹拌機の回転数と処理時間の実績が記録されていることが必要です。更に、確認者や照査者は何を確認、何を照査しているのか、どのように実施しているのかが重要です。 機械的なサインや捺印ではなく、測定者は測定値が管理図等を用いて従来のトレンドと比べて異常がないことを確認していること、異常があった場合には報告する仕組みが確立されていること、確認者はその管理体制が機能していることを確認していることが重要です。
② 製造設備と環境の確認
・清浄エリアの清浄度、温・湿度管理、交叉汚染防止策、設備のメンテナンス記録、キャリブレーション状況、設備・装置の使用前の適格性の確認状況が重要なチェック項目です。
③ 原料・資材管理の確認
・原料・材料の受入れ検査、保管条件、使用期限管理などを確認します。トレーサビリティに関する管理状況が重要で、現場で使用した端数処理および理論残との差異管理、更には、保管中の品質異常の有無について管理が徹底されているか確認します。特に抜けがちですが、各供給者からの品質情報、変更管理・逸脱管理の情報提供について適切に運用されていることの確認も重要な事項です。
④ 製造プロセスの管理の確認
・製造指図書に従った製造が行われているか?重要工程の管理状況、工程内の管理の実施状況が重要です。
⑤ 品質管理システムの確認
・製品の規格試験、安定性試験、微生物試験などの実施状況を確認します。特に、OOS(規格外結果)の調査プロセスは重要な事項です。見逃しがちな事項はとしては、生データの管理を主とするデータインテグリティの確保です。自分のノートに測定結果を記載した後に転記したり、何回かやり直したりすることがないよう生データの扱いについては注意が必要です。また、測定時に使用した機器や試薬のトレーサビリティの確保も重要です。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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