最新コスメ科学 解体新書【第9回】

AIとコスメ②

 前回は、化粧品業界でいま、まさに展開されているAI関連のテクノロジーを紹介しました。長年蓄積されてきた皮膚科学に関する膨大なデータと機械学習をはじめとする情報科学の手法が組み合わさることで、皮膚が変形する過程を内部構造まで超高精細にコンピューター上に再現する「4DデジタルスキンTM」、皮脂の中のRNAを網羅的に分析する「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」、顔の表情をつくる際のごくわずかな肌の動きの遅れをエイジングサインとして解析するコンピューターシミュレーションが開発され、新しい化粧品やカウンセリングに利用されているのでした。

 さて、今回は、もうちょっと基礎的な研究の世界でなにが行われているのか、アカデミアでの取り組みについて紹介します。

 まずは化粧品業界の花形、スキンケアのイノベーションにつながるテクノロジーを紹介します。皮膚は人体最大の臓器と呼ばれており、ヒトが生きていくためにさまざまな役割を果たしていることが知られていますが、中でも最も重要なのが水分の蒸散を防ぐバリア機能です。われわれの身体の主成分は水で、約70%を占めると言われていますが、これが多量に失われると生命の危機にもつながると言われています1)。皮膚、特に最外層に存在する角層は体内からの水分の蒸散を防いでくれる柔らかく、しなやかな防波堤なのです。

 スキンケア化粧品の最も重要な役割は、角層に潤いを与えて皮膚がバリア機能を保持するサポートをすることなのですが、このバリア機能をきちんと評価するのは簡単なことではありませんでした。なにしろ相手は生きた皮膚、傷をつけたり強い負荷を与えることなく、防波堤としてのパワーを数値化する必要がありました。そこで開発されたのが、経表皮水分蒸散量、略称TEWLの測定器でした2)。この装置は、細い円筒の内部に湿度センサーが複数装着されており、皮膚からの蒸散するごくわずかな水分量のグラジエントからバリア機能の程度を定量化することができるのです。この装置は、世界中の化粧品メーカーだけでなく、デパートなどの店頭でも利用されています。

 この、スキンケア化粧品を開発する上で必須のTEWLの測定システムが、AIのパワーを利用して飛躍的な進歩を遂げようとしているのです。理化学研究所のグループは、顕微鏡で撮影した皮膚画像から構造的な特徴とTEWLの間に有意な相関を見出し、これらの特徴を入力として、TEWLを予測する機械学習モデルを学習させることに成功したのです3)。この技術によって、特別な装置を使うことなく、スマートフォンで撮影した画像からTEWLを推定することが可能になれば、日々のバリア機能の変化をモニターし、ひとりひとりにとってその瞬間に最適なスキンケアを提案することがかのうになることが期待されるのです。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます