最新コスメ科学 解体新書【第7回】

2024/07/05 化粧品

化粧品と菌。

化粧品と菌

 わたしたちの皮膚には、膨大な数の細菌が棲息していることは、みなさんご存知の通りです。それでは、どれくらいの数の細菌いるのでしょうか?細菌の増殖を観察するコロニーカウント法で評価したところ、平均的には1 cm2 あたり1,000~10,000、脇の下や鼻孔などの湿った場所から採取したサンプルからは100万以上のコロニーが観察されました [1]。このことは、皮膚には常在菌と呼ばれる膨大な数の細菌が住みついており、細菌叢とよばれるコミュニティーを形成していることを示しているのです。

 最近、この細菌叢に着目した化粧品が相次いで提案されました。(株)資生堂の研究者は、皮膚の免疫を高める表皮ブドウ球菌が多数棲息している皮膚は、水分量が多く赤みが抑えられていることを見出し、この菌の増殖を促進する酵母エキスやトレハロース・エリスリトールなどの糖類を配合したスキンケア化粧品を実用化しています [2]。ポーラ化成工業(株)はStaphylococcus hominisという皮膚常在菌は、目立つ毛穴が少なく、皮膚が白く、水分の蒸散を防ぐバリア機能に優れたヒトに多く存在すること、この菌の配合された化粧水を1か月塗り続けるとこれらの指標が改善することを発見しました。さらには、テンニンカ果実エキスがこの菌の増殖を促進することを利用して、皮膚菌叢に着目した美白化粧料という新しいジャンルが生み出されたのです [3, 4]。

 表皮ブドウ球菌は、皮脂に含まれてるトリグリセリドを分解して保湿の一端を担うグリセリンと皮膚を弱酸性に保つ脂肪酸の産生を促進するリパーゼや、活性酸素を消去する抗酸化酵素を産生することで、スキンケアに貢献すると言われています [5]。しかし、話はそんなに簡単ではありません。表皮ブドウ球菌は、皮膚免疫反応を促進して日和見病原体の侵入を防いでいますが、表皮ブドウ球菌の一部の菌株が、皮膚疾患に関与している可能性も示唆されています [6]。

 

 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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